はじめに

紫芋(むらさきいも)と一口に言っても、その品種は実にさまざまです。焼き芋にして甘い品種もあれば、鮮やかな色を活かす加工用の品種もあります。色の濃さや食感、用途は、品種ごとに大きく異なります。

本記事では、日本で栽培・利用されている代表的な紫芋の品種と、その違いについて、一次情報をもとにわかりやすくご説明したいと思います。

紫芋の品種は大きく2タイプに分かれる

紫芋とは、果肉まで紫色を帯びたさつまいもの総称です。その紫色は、ポリフェノールの一種であるアントシアニンという水溶性の色素によるものです。ポリフェノールは植物が持つ成分で、抗酸化に関連して研究されています。紫芋の品種は、味を重視した「青果用(焼き芋・料理向け)」と、色や収量を重視した「加工・色素用」の大きく2タイプに分けて考えると整理しやすくなります。

青果用(焼き芋・料理向け)の紫芋とは

青果用の紫芋は、焼き芋やふかし芋にしたときのおいしさを重視して選ばれる品種です。従来、紫芋は黄肉のさつまいもに比べて甘みが控えめな傾向があると言われてきました。しかし近年は、甘みとしっとりした食感を両立した新しい品種も登場しています。代表格は、このあとご紹介するパープルスイートロードやふくむらさきです。

加工・色素用の紫芋とは

加工・色素用の紫芋は、甘みよりもアントシアニンの多さや収量の高さを重視して育成された品種です。鮮やかな紫色を活かし、天然の食品着色料や、ペースト、パウダー、紫芋焼酎などの原料に用いられます。紫芋のアントシアニンは加熱しても色が残りやすいため、お菓子の自然な色づけにも向いています。

青果用(焼き芋・料理向け)の代表的な紫芋品種

ここでは、焼き芋やお菓子として楽しめる青果用の紫芋のうち、店頭や通販で出会う機会が比較的多い2品種をご紹介します。いずれも農研機構(国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構)が育成した品種で、紫芋の中では良食味とされています。

ふくむらさき(2021年に品種登録された新しい品種)

ふくむらさきは、農研機構九州沖縄農業研究センターが育成した紫サツマイモです。食味の良い黄肉色のさつまいも系統「九系255」を母、「パープルスイートロード」を父として交配して生まれました(農研機構)。品種登録は2021年で、登録番号は第28530号です。「その美味しさで食べた人を幸福な気持ちにできる紫サツマイモ」という思いから名づけられたとされています。

大きな特徴は、パープルスイートロードよりも果肉の紫色が濃いことです(農研機構)。蒸しいも・焼きいもにしたときの甘さは紅はるか並みに高いと評価されており、肉質は中〜やや粘質で、しっとりとした食感が楽しめます(甘さの目安)。色の濃さを示すアントシアニン色価も、パープルスイートロードを上回るとされています。一方で1個あたりが小ぶりになりやすいため、十分な生育期間を確保して育てるのが望ましいとされています。

くわしくはふくむらさきの特徴をさらに詳しく解説した記事もご参照ください。

パープルスイートロード(2004年登録・青果用の代表品種)

パープルスイートロードは、青果用の紫サツマイモを代表する品種の一つです。2004年に品種登録され(登録番号第12277号/品種登録データベース)、名称は「紫いもの王様(ロード)にあたる甘いさつまいも」を表すとされています。アントシアニン色素を含む「九州119号」を母本に、複数品種の混合花粉を交配して選抜されました(農研機構)。

皮は濃い赤紫色で外観が良く、果肉は紫色です。紫芋の中では甘みがしっかりとあり、やや粉質でホクホクとした食感が特徴です。加熱するとやや赤みを帯びた紫色になります。多収で栽培しやすく全国に広く普及したことから、青果用紫芋の代表格となりました。旬は品種の性質上、収穫後しばらく置いた10月中旬から1月頃です。

加工・色素用の紫芋品種

続いて、鮮やかな紫色を着色や加工に活かすために育成された品種を見ていきます。これらは甘みが控えめな一方で、アントシアニンを多く含み、焼酎や天然色素、ペーストなどの原料に利用されています。いずれも農研機構などが育成した品種です。

アヤムラサキ(1995年育成の色素向け品種)

アヤムラサキは、1995年(平成7年)に育成された紫芋です。鹿児島県の在来種「山川紫」の濃い紫色を活かしつつ、色素の含有量や収量を高める目的で開発されました。日本いも類研究会は、世界で初めての色素専用品種と紹介しています。甘みはほとんどなくホクホクとした食感で、焼き芋などの生食には向きません。抽出した色素は、飲料やお菓子の着色に幅広く使われています。

ムラサキマサリ(2001年育成)

ムラサキマサリは、2001年(平成13年)に育成された加工向けの品種です。ペーストやパウダーなどの加工用途に適しており、外観や収量性が改善されています。甘みは控えめで、やはり生食よりも加工に向く品種です。

アケムラサキ(2005年育成)

アケムラサキは、2005年(平成17年)に育成された品種で、アントシアニンの含有量が特に多い品種の一つとされています。果肉は非常に濃い紫色で、甘みはほとんどありません。ネコブセンチュウなどの線虫に抵抗性があり、色素の原料や菓子などの加工用に用いられます。焼酎の原料にもなりますが、焼酎は蒸留酒のため、紫色の色素がそのまま酒の色として残るわけではありません(紫芋焼酎は、色ではなくワインのような華やかな香りが特徴とされます)。

地域で受け継がれる紫芋(種子島など)

紫芋には、特定の地域で古くから栽培され、ブランドとして受け継がれてきた品種もあります。ここでは鹿児島・種子島の品種を中心に取り上げ、あわせて名前の似た沖縄の「紅いも」との関係にも簡単に触れます。

種子島むらさき・種子島ゴールド・種子島ろまん

種子島むらさきは、鹿児島県の種子島で古くから栽培されてきた在来の紫芋です。でんぷん質が多く、ホクホクとした食感です。

ここから選抜され、1999年(平成11年)に鹿児島県によって品種登録されたのが、種子島ゴールドと種子島ろまんです。種子島ゴールドは皮が白っぽく果肉は濃い紫色、種子島ろまんは皮が赤紫色で果肉は紫色です。鹿児島県農業試験場の育成報告では、いずれも蒸しいもの肉質は粉質、食味は中と報告されています。栽培量が限られ、流通も多くないため比較的手に入りにくく、焼き芋やお菓子、焼酎の原料に用いられています。

沖縄の「紅いも」との関係

沖縄では、果肉が紫色のさつまいもを「紅いも(べにいも)」と呼び、紅いもタルトなどの原料に用いてきました。これらの紅いもも、一般にはさつまいも(Ipomoea batatas)の紫肉品種です(農林水産省 植物防疫所)。名前の似た「ダイジョ」はヤマノイモ科の別の作物で、紫芋とは分類が異なります。紫芋そのものの基礎については、紫芋とはどんなさつまいものかを解説した記事で詳しくご説明しています。

主な紫芋品種の比較一覧

ここまでご紹介した代表的な紫芋の特徴を、果肉の色・甘みの傾向・食感・主な用途で一覧にまとめました。品種選びの参考にしてみてください。なお、甘みや食感の評価は品種間のおおよその傾向であり、栽培条件や調理法によって変わります。

品種果肉の色甘みの傾向食感主な用途
ふくむらさき非常に濃い紫紫芋では甘いしっとり(やや粘質)焼き芋・ふかし芋・お菓子
パープルスイートロード紫(加熱で赤み紫)紫芋では中程度ややホクホク焼き芋・料理・お菓子
アヤムラサキ非常に濃い紫控えめホクホク色素・焼酎・加工
ムラサキマサリ濃い紫控えめホクホク色素・ペースト・加工
アケムラサキ非常に濃い紫控えめホクホク色素・焼酎・加工
種子島むらさき紫(皮は淡黄色)控えめホクホク(粉質)お菓子・焼酎
種子島ゴールド濃い紫(皮は白っぽい)中程度ホクホク(粉質)焼き芋・お菓子・焼酎
種子島ろまん紫(皮は赤紫)中程度ホクホク(粉質)お菓子・焼酎

紫芋の品種に関するよくある質問

最後に、紫芋の品種についてよく寄せられる疑問にお答えします。普通のさつまいもとの違い、色の仕組み、家庭菜園での栽培について、それぞれ簡単にご説明します。

Q1. 紫芋と普通のさつまいもは何が違うのですか?
紫芋は、果肉までアントシアニンを含み、断面まで紫色になるさつまいものことです。黄肉のさつまいもと比べると甘みが控えめな品種が多いとされますが、ふくむらさきのように甘みと食感を両立した品種も登場しています。より詳しい基礎知識は、紫芋そのものについて詳しく解説した記事をご覧ください。

Q2. 紫芋の紫色は加熱しても消えないのですか?
紫芋のアントシアニンは比較的熱に安定で、加熱後も発色が残りやすいとされています。そのため、お菓子で自然な紫色を出せる点が魅力です。ただし、長時間ゆでると色素が水に溶け出して色が薄くなることがあります。色の仕組みは、紫芋が紫色になる理由の記事で詳しくご説明しています。

Q3. 紫芋は家庭で育てられますか?
自家消費を目的とする家庭菜園や趣味の栽培であれば、種苗法の改正による影響はありません(農林水産省)。正規に購入した苗を育てて自分で食べる分には、問題なく楽しめます。ただし、ふくむらさきのような登録品種を自家増殖する場合(収穫したいもやつるから種苗を増やして、次の栽培に使う場合)は、育成者権者の許諾が必要です。さらに、増やした種苗を他の人へ渡すことは、有償・無償を問わずできません。詳しくは農林水産省や育成者権者の案内をご確認ください。

まとめ

紫芋には、青果用から色素・加工用、地域の在来品種まで、多彩な種類があります。それぞれ色の濃さや甘み、食感、用途が異なります。

焼き芋やお菓子として味わうなら、ふくむらさきやパープルスイートロード、種子島ゴールドなどの青果用品種がおすすめです。鮮やかな色を活かすなら、アヤムラサキやアケムラサキといった加工用品種が使われます。用途やお好みに合わせて、いろいろな紫芋を試してみてはいかがでしょうか。

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