紫芋(むらさきいも)の品種を調べていると、「アヤムラサキ」という名前に行き当たることがあります。ところが、スーパーの店頭でこの名前を見かける機会はほとんどありません。

それもそのはずで、アヤムラサキは食べておいしいことよりも、濃い紫色をとり出すことを目的に育てられた品種だからです。

本記事では、アヤムラサキの成り立ちや味の特徴、そして「ふくむらさき」など青果用の紫芋との違いについて、農研機構や農林水産省の資料をもとに、わかりやすくご説明したいと思います。

アヤムラサキとは?

アヤムラサキは、アントシアニン色素の原料用として育成された、さつまいもの紫肉品種です。まずは、どのような経緯で生まれ、どんな位置づけにあるのかを整理します。一般的なさつまいもとは育種の出発点そのものが異なるため、ここを押さえておくと、後の「甘くない理由」も自然に理解できます。

一言でいうと「色をとるために育てられた紫芋」

皮は暗赤紫色、いもの中身(肉色)は濃い紫色というのが、アヤムラサキの外見的な特徴です。

日本いも類研究会の解説によれば、在来種「山川紫」の色素含量や収量性を高めた色素専用の品種として、九州農業試験場(現・農研機構 九州沖縄農業研究センター)と色素メーカーとの共同研究で育成されたと説明されています。

つまり、青果用の品種が「おいしさ」を目標に改良されてきたのに対し、アヤムラサキは「色の濃さ」を目標に選抜されてきた品種、ということになります。

[画像挿入推奨: アヤムラサキの断面(濃い紫色の肉色がわかるもの)/alt「アヤムラサキの濃い紫色のいもの中身」]

アヤムラサキの品種データ

農研機構と農林水産省の公表資料から、基本的なデータをまとめます。

項目内容
作物種カンショ(さつまいも)Ipomoea batatas
育成機関九州農業試験場(現・農研機構 九州沖縄農業研究センター)
交配組み合わせ「九州109号」×「サツマヒカリ」
農林番号かんしょ農林47号(平成7年=1995年育成)
出願番号6346(出願日 1993年10月1日)
公表日1999年7月29日
登録番号7497(登録日 1999年11月25日)
育成者権の存続期間20年(満了日 2019年11月25日)
いもの形・皮色・肉色長紡錘・暗赤紫・濃紫
主な作付地域南九州

出典:農研機構「品種詳細 アヤムラサキ」、農林水産省「いも・でん粉に関する資料(かんしょ品種の普及状況)」

母親の「九州109号」は高アントシアニンで形状に優れた系統、父親の「サツマヒカリ」は多収の加工向け品種とされています。この組み合わせが、後述する色と味の両方の特徴につながっています。

育成年が資料によって違うのはなぜ?

アヤムラサキについて調べると、「1995年に登録された品種」と書かれた記事と、「1999年に品種登録された品種」と書かれた記事の両方が見つかります。どちらか一方が誤りのように見えますが、実は指している手続きが違うだけです。

命名登録(1995年)と品種登録(1999年)の違い

アヤムラサキには、性格の異なる2つの記録があります。

ひとつが「かんしょ農林○号」という農林番号の命名登録です。これは国の試験研究機関が育成した品種に付けられるもので、アヤムラサキは平成7年(1995年)に「かんしょ農林47号」として登録されました。農研機構のプレスリリースでも「アヤムラサキ(平成7年育成)」と記されています。

もうひとつが、種苗法にもとづく品種登録です。こちらは育成者の権利を守るための制度で、出願から登録まで数年かかることも珍しくありません。アヤムラサキの場合、1993年10月1日に出願され、1999年11月25日に登録番号7497として登録されています。

したがって「1995年」も「1999年」も、それぞれ別の制度上は正しい年ということになります。なお、すべてのさつまいも新品種が両方の登録を受けるわけではありません。農林水産省の主要品種特性表を見ると、ふくむらさきのように農林番号を持たない登録品種もあります。品種の情報を扱うときは、出願番号と登録番号、命名登録と品種登録を混同しないことが大切です。

アヤムラサキの味・食感(甘くないと言われる理由)

アヤムラサキを紹介する記事の多くが「甘くない」と書いています。これは品種の欠点というより、育種の目的がそもそも別のところにあった結果です。ここでは公的資料の評価と、その背景をご説明します。

公的資料の評価は「食味は劣る」

農林水産省「いも・でん粉に関する資料」の主要品種特性表では、アヤムラサキは加工用に区分され、アントシアニン色素含量が多い色素抽出用の品種で、食味は劣ると整理されています。日本いも類研究会の品種詳説(かんしょ農林47号)でも、食味は劣ると評価されています。

甘さが控えめとされる背景にあるのは、育種の目標が色素含量と収量に置かれていたことです。甘さや食感の向上は、この品種の開発目標ではありませんでした。なお、公的資料の「食味は劣る」という評価は、甘味だけでなく食感や香りなども含めた総合的な評価であり、甘さが弱い直接の原因を示したものではありません。

参考までに、片親である「サツマヒカリ」についても、同じ資料はβ-アミラーゼ(でんぷんを麦芽糖に分解する酵素)の活性が低く、加熱しても甘味が出にくい品種と記載しています。焼きいもが甘くなるのは、加熱でのりのようになったでんぷんにこの酵素が働くためで、その働きが弱ければ甘さは大きく増えません。

家庭で楽しむなら色を主役に

とはいえ、甘くないことは「食べられない」という意味ではありません。加熱しても紫色が濃く残るという特性は、家庭の調理でもそのまま活かせます。

甘さは、はちみつや砂糖、生クリームなど他の素材で補うという考え方が向いています。ペースト状にしてスイーツの色づけに使ったり、薄切りにして揚げたりと、色を主役にした使い方を前提にすると持ち味が出る品種です。

なぜここまで色が濃い?アントシアニンと加工用途

アヤムラサキの最大の持ち味は、加熱や加工を経ても失われにくい濃い紫色です。この色を生んでいるのがアントシアニンという成分で、その性質が加工原料として選ばれてきた理由に直結しています。色そのものの仕組みについては、紫芋が紫色になる仕組みの記事でも詳しく扱っています。

アントシアニン色価が高い品種

アントシアニンは、ポリフェノール(フラボノイド)の一種である水溶性の色素です。ブルーベリーや赤じそ、赤ワインなどの紫〜赤色のもとにもなっています。

色素量の多さを示す指標が「色価(しきか)」です。日本いも類研究会の品種詳説では、アヤムラサキの色価は母親である「九州109号」の約1.5倍と紹介されています。ただし色価は栽培条件や分析方法によって変動するため、目安として捉えるのが適切です。

なお本記事では、アントシアニンの色素としての性質と用途に絞ってご紹介します。

加熱・光に強い「アシル化アントシアニン」

紫サツマイモのアントシアニンは、糖のほかにカフェ酸などの有機酸が結合した「アシル化(有機酸がくっついた状態)」という構造をもつタイプが中心とされています。

この構造をもつアントシアニンは、熱や光に対して比較的安定であると複数の研究で報告されてきました。加工や貯蔵の過程で退色しにくいという性質が、天然着色料としての実用化を後押ししたと説明されています。

色素・ペースト・パウダー・醸造という4つの用途

日本いも類研究会の品種詳説は、アヤムラサキの用途として天然色素抽出用・ペースト用・パウダー用・醸造用の4つを挙げています。農研機構も、ジュースや飲む酢、パウダー、色素など数多くの加工品を生み、紫いもブームを巻き起こした品種と紹介しています。

実際の利用規模として、農研機構のプレスリリース(2005年9月15日公開)では、アヤムラサキ由来のアントシアニン色素が天然着色料として飲料や漬物等に年間160t程度利用され、約9億円の市場になっていると記されています(同時点の記述)。

4つ目の醸造用については、芋焼酎の原料に使われることがあります。ただし、アントシアニンは蒸留では留液に移らないため、できあがる焼酎は基本的に無色透明です。色ではなく、香りの個性として現れる点に注意が必要です。

ふくむらさき・パープルスイートロードとの違い

紫芋の品種は、どれが優れているかではなく、何のために育てられたかで性格が分かれます。ここでは代表的な3品種を、用途という軸で並べてみます。品種全体の見取り図は紫芋全般の基礎知識もあわせてご覧ください。

用途で見る3品種の位置づけ

品種主な用途色の濃さ甘さの傾向品種登録
アヤムラサキ色素・加工原料用色価が高い控えめ1999年(登録番号7497)
パープルスイートロード青果用(生食)紫肉だが色価は中程度控えめ〜中2004年(登録番号12277)
ふくむらさき青果用(生食)パープルスイートロードを上回る色価蒸し・焼きで高い2021年(登録番号28530)

パープルスイートロードは農研機構が育成した品種で、多収で栽培しやすく、紫芋の青果用として広く普及しました。千葉県では「千葉むらさき」の名で流通しますが、これは別品種ではなく同じ品種の流通名です。

ふくむらさきは比較的新しい品種で、農研機構は蒸しいも・焼きいもの糖度がべにはるかと同程度に高いと評価しています。詳細はふくむらさきの詳しい品種解説をご参照ください。

目的別の選び方

濃い紫色そのものを目的にするなら、アヤムラサキ由来のパウダーやペーストといった加工品が使いやすい選択肢になります。

一方、焼きいもや蒸しいもとして味わいたい場合は、青果用に育てられたふくむらさきやパープルスイートロードが向いています。色の濃さと食べたときの甘さは別の性質ですので、目的から逆算して選ぶのがおすすめです。

アヤムラサキは買える?育てられる?

「名前は知っているのに実物を見たことがない」と感じる方が多い品種です。その背景には、栽培されている面積そのものが限られているという事情があります。

作付面積と主な産地

農林水産省「令和6年度いも・でん粉に関する資料」の品種別作付面積によると、アヤムラサキの作付面積は最新の令和5年産(概算値)で59.5ha、かんしょ全体(31,469ha)の0.2%にとどまります。令和2年産以降も60ha台で推移しており、大きな増減は見られません。

産地としては、令和5年時点で鹿児島県が加工用の準奨励品種、沖縄県が食用の奨励品種としてアヤムラサキを挙げています。収穫期は他のさつまいもと同様に秋が中心ですが、青果として全国に出回るというより、特定の産地で加工原料として作られている品種といえます。

なお、色素用としてはアヤムラサキより色価の高い「アケムラサキ」(かんしょ農林62号)など、後継品種も育成されています。ただし品種別作付面積の統計にアケムラサキは個別に計上されておらず、色素原料用としてはアヤムラサキが引き続き栽培されている状況です。

育成者権の保護期間は終了している

品種を育てたい方にとって重要なのが、種苗法上の扱いです。アヤムラサキの育成者権は、2019年11月25日で存続期間が満了しています(農研機構)。農林水産省は、品種登録期間が切れた品種を在来種などと同じ「一般品種」と位置づけており、一般品種の利用に制限はないとしています。

ただし、これはアヤムラサキに限った話です。ふくむらさきのように育成者権が存続している登録品種では、自己の農業経営で自家用に増殖する場合に原則として許諾手続きが必要です。また農林水産省は、農業者が自分で増殖した登録品種のつる苗を他の人に譲る行為についても、許諾が必要としています。

一方で、同省は自家消費を目的とする家庭菜園や趣味としての栽培には影響がないとしています。販売も譲渡もしない自家消費にとどまるかどうかが目安になりますので、品種ごとの扱いとあわせてご確認ください。

なお2026年7月24日の種苗法改正により、この時点で育成者権が存続していた登録品種の存続期間は、品種登録の日から35年(永年性植物は40年)に延長されました。アヤムラサキはこれ以前に保護期間が満了しているため、対象にはなりません。

よくある質問

アヤムラサキについて検索される機会の多い疑問を3つ取り上げます。

Q1. 焼き芋にしてもおいしくないのですか?

公的資料の評価では食味は高くありませんが、これは甘さを目的に育てられていないためです。甘みが穏やかなさつまいもがお好みなら選択肢になりますし、色を活かした料理やお菓子であれば持ち味が出ます。

Q2. 沖縄の紅いもと同じものですか?

「紅いも」は紫肉のさつまいもの総称で、沖縄では「ちゅら恋紅」「沖夢紫」などの品種が主に栽培されています。アヤムラサキも沖縄県の奨励品種に挙げられていますが、品種としては別のものです。

Q3. 芋焼酎の「綾紫」と同じ品種ですか?

品種名としての表記はカタカナの「アヤムラサキ」で、これを原料にした芋焼酎に「綾紫」と冠した商品があります。ただし前述のとおり、蒸留した焼酎に紫色が移ることはありません。

まとめ

アヤムラサキは、食べる楽しみよりも色をとり出すことを目的に育てられた、さつまいもの紫肉品種です。最後に要点を整理します。

  • 1995年に「かんしょ農林47号」として命名登録、1999年に品種登録(登録番号7497)
  • 交配は「九州109号」×「サツマヒカリ」で、甘さは控えめ
  • 色価が高く色素が比較的安定しているため、色素・ペースト・パウダー・醸造の原料に適する
  • 作付けは令和5年産で59.5ha、全国の0.2%と限られ、青果として出回りにくい
  • 育成者権の保護期間は2019年に終了し、現在は一般品種にあたる

紫芋を「食べて楽しむ」なら、ふくむらさきやパープルスイートロードのように青果用に育てられた品種が向いています。品種ごとの育てられた目的を知ると、紫芋の世界はぐっと見通しがよくなります。

参考資料(一次情報)

本記事の品種データ・統計・法制度は、以下の公的資料をもとにしています。

ふくむらさきどっとこむ