秋から冬にかけて、店頭や通販で「種子島紫」という名前のさつまいもを見かけることがあります。手に取った一本は皮が白っぽいのに、切ってみると中は鮮やかな紫色。その意外な組み合わせに、思わず驚いた方もいらっしゃるかもしれません。
ところが調べてみると、同じ売り場に「種子島ゴールド」という別の名前も並んでいて、どちらが品種名なのか分かりにくいのが実情です。
本記事では、種子島紫とはそもそも何なのか、そして種子島ゴールドとはどういう関係にあるのかを、一次情報をもとにわかりやすくご説明したいと思います。
種子島紫(たねがしまむらさき)とは?
種子島紫とは、鹿児島県の種子島で受け継がれてきた、果肉が紫色のさつまいもの在来品種・在来系統に使われる名称です。ひとつの品種を指す言葉ではなく、複数の系統をまとめて呼ぶ場合もあります。まずはその位置づけと、まぎらわしい呼び名の関係を整理しておきます。
種子島に古くから伝わる紫肉の在来種
種子島紫は、種子島で昔から自家用に栽培されてきた、果肉が紫色のさつまいもです。
植物としては、ごく一般的なさつまいもと同じヒルガオ科サツマイモ属(学名 Ipomoea batatas)に分類されます。紫色の芋には、ヤマノイモ科のダイジョやサトイモ科の田芋(ターンム)など分類のまったく異なるものもありますが、種子島紫はそれらとは別で、あくまでさつまいもの仲間です。
ここで注意したいのが、皮の色が一様ではない点です。「種子島紫」と呼ばれてきたものは単一の系統ではなく、白っぽい皮の系統もあれば、紫色の皮の系統もあります。共通しているのは果肉が紫色であることで、皮の色は系統によって異なります。
鹿児島県農業試験場が種子島から収集した在来いも11系統の内訳も、「安納いも」が4系統、「種子島紫」が7系統だったと報告されています(上妻ほか「カンショの品種'安納紅','安納こがね','種子島ろまん','種子島ゴールド'の育成」鹿児島県農業試験場研究報告 第31号、2003年)。つまり種子島紫は、7つの系統を含む幅のある呼び名でした。
紫芋全般の基礎知識もあわせてご覧いただくと、位置づけがより分かりやすくなります。
[画像挿入推奨: 紫の果肉が見える断面(alt=「種子島紫の断面 果肉は紫色」)]
「種子島紫」「種子島むらさき」—呼び名を整理する
同じものを指しながら、表記がいくつも流通している点も混乱のもとになっています。
「種子島紫」「種子島むらさき」は、漢字かひらがなかの違いで、どちらも同じ在来系統を指す呼び名として使われています。
やや込み入っているのが、これが「品種名かどうか」です。種子島紫は種苗法にもとづく現在の登録品種名ではありませんが、育種や栽培の資料では「在来品種」の名称として、あるいは複数の在来系統をまとめた名称として使われています。文脈によって指す範囲が変わる言葉、と捉えておくのが実態に近いでしょう。
特定の品種を指したいときは、次に見る「種子島ゴールド」「種子島ろまん」といった登録品種名を使うのが正確です。
種子島紫と「種子島ゴールド」「種子島ろまん」の関係
種子島紫をめぐる分かりにくさの中心は、在来系統としての「種子島紫」と、そこから選抜された登録品種が併存している点にあります。ここが整理できると、売り場の表示もぐっと読み解きやすくなります。
在来11系統から選抜された2つの品種
種子島ゴールドと種子島ろまんは、どちらも種子島紫の在来系統から選び抜かれて生まれた品種です。
鹿児島県農業試験場熊毛支場(現在の鹿児島県農業開発総合センター熊毛支場)は、1988年に島内で栽培されていたさつまいもを収集し、1989年から選抜育成に取り組みました。そして形状・外観・肉色・収量性など、商品として扱いやすい個体を選抜していきます。
その成果として、1998年10月に黄肉の「安納紅」「安納こがね」が、続いて紫肉の2品種が品種登録されました。
品種 品種登録番号 登録年月日
種子島ろまん 第7085号 1999年3月17日
種子島ゴールド 第7086号 1999年3月17日
このうち、白っぽい皮の系統から選抜されたのが種子島ゴールド、紫色の皮をもつのが種子島ろまんです。同じ「種子島紫」から出発しながら、外観の異なる2品種になりました。
権利関係についても触れておきます。両品種の育成者権は、現在はいずれも消滅しています。品種登録データベース上の消滅日は、種子島ろまんが2007年3月20日、種子島ゴールドが2016年3月18日です。登録当時の存続期間は20年とされていましたが、実際にはそれより前に権利が失われており、理由までは公表情報からは分かりません。
いずれにせよ現在は、農林水産省のいう「一般品種」(在来種・品種登録されたことがない品種・品種登録期間が切れた品種)にあたります。
「種子島紫」として売られているものの中身
そのため、売り場で「種子島紫」と表示されていても、中身は在来系統とは限りません。
種子島ゴールドが「種子島紫」の名前で流通することがある、と紹介されることもあります。産地での通称と品種名が一致しないのは、さつまいもでは珍しいことではありません。
呼び名 位置づけ 皮の色 特徴・用途
種子島紫(在来系統) 在来品種・在来系統群。単一の品種ではない 系統により白っぽい/紫など 系統ごとの差がある。自家用・青果・加工
種子島ゴールド 育成品種(第7086号・1999年登録) 白っぽい淡黄色 果肉は濃い紫。青果・加工向け
種子島ろまん 育成品種(第7085号・1999年登録) 紫 在来系統より多収。蒸しいもの肉色は濃紫。青果・加工向け
種子島紫の味・食感・見た目
「甘い紫芋」として紹介されることが多い種子島紫ですが、見た目も食感も、資料によって書かれていることが異なります。ここでは、その幅をそのままお伝えします。
果肉は紫、皮の色は系統によって異なる
種子島紫に共通するのは、果肉が紫色であることです。
この紫色は、アントシアニンという色素によるものです。アントシアニンはポリフェノール(フラボノイド)の一種で、水に溶ける天然の色素です。ブルーベリーやなす、赤ワインなどにも含まれています。紫芋(むらさきいも)の場合は皮だけでなく果肉にも含まれるため、切ったときに断面まで紫色になります。
一方、皮の色は共通していません。白っぽい皮のものを見かけることが多いかもしれませんが、そこから選抜された種子島ろまんは紫色の皮をもちます。「種子島紫だから皮は白い」とは言い切れないとお考えください。
紫色の色素は、加熱しても比較的残りやすい
紫のさつまいもに含まれるアントシアニンは、ほかの多くの植物由来のアントシアニンに比べて熱に比較的強く、加熱後も紫色が残りやすい性質があります。
ただし、加熱すれば必ず色が濃くなる、というわけではありません。色の濃さや鮮やかさは、系統や品種、加熱の温度と時間、pHなどの条件によって変わり、長く加熱すると退色することもあります。
色の仕組みそのものについては、紫芋が紫色になる仕組みで詳しくご説明しています。
食感の評価は資料によって分かれる
食感についても、記述が一致していません。
苗を扱う種苗会社の説明では「粘質で食味良好」とされる一方、野菜図鑑の類では「でん粉質が多くホクホク」と説明されています。生産者や小売の紹介文でも、ホクホク寄りとする声が見られます。
これは、そもそも「種子島紫」が複数の系統を含む呼び名であることが大きいと考えられます。系統によって性質が違ううえ、さつまいもの肉質は栽培条件や収穫時期、貯蔵期間によっても変わります。一律に「ホクホク」「ねっとり」と決めつけるのは適切ではなさそうです。
また、紫芋は甘みが控えめとされることもありますが、これも品種によります。近年は蒸しいも・焼きいもの糖度が高い紫肉品種も登場しており、甘さで選ぶこともできるようになっています。
なぜ「島でしか食べられない芋」だったのか
種子島紫が全国的に知られるようになったのは、比較的最近のことです。その背景には、品種の問題ではなく、植物防疫法という法律による移動の規制がありました。
特殊害虫と、生いもの移動規制
さつまいもには、アリモドキゾウムシやイモゾウムシといった特殊害虫が寄生することがあります。
これらの害虫が発生している地域では、まん延を防ぐため、生のさつまいも(生塊根)や苗・つるなどを発生していない地域へ移動させることが、植物防疫法によって原則として規制されています。ただし、蒸熱処理などの所定の消毒を受けたものや、加工された食品は例外的に移動できます(農林水産省 植物防疫所)。
種子島も、かつてはこの規制の対象でした。1990年にアリモドキゾウムシの侵入が確認され、さつまいもの島外への持ち出しが禁止されます。その後、島内での根絶が1998年に確認され、規制が解除されました。農林水産省の地理的表示(GI)登録「種子島安納いも」の登録情報でも、1998年までは島外への移動が禁止されていたと説明されています。
現在の種子島産の扱い
現在は、事情が変わっています。
植物防疫所が示す移動規制の対象地域は、トカラ列島以南の南西諸島および小笠原諸島です。種子島はこの範囲に含まれていないため、種子島産のさつまいもは生のまま本土へ出荷できます。
同じ紫のさつまいもでも、沖縄県や奄美群島の紅いもは現在も規制の対象です。産地によって扱いが違う点は、混同しないようご注意ください。
旬・出回る時期と、家庭で育てられるか
最後に、実際に手に入れる・育ててみるときの目安を整理します。保存のしかたと、種苗法上の扱いもあわせて確認しておきましょう。
旬は晩秋から冬
種子島紫が出回るのは、おおむね晩秋から冬にかけてです。
さつまいもは収穫後しばらく貯蔵してから出荷されるのが一般的で、産地でも数週間置いてから出荷されることがあります。
保存の際は、冷蔵庫に入れないのが基本です。農林水産省は、さつまいもの貯蔵温度の目安を13〜14℃とし、9℃以下では腐敗しやすく、15℃を超えると皮色の劣化や萌芽が起こりやすいと説明しています。新聞紙などに包み、風通しのよい常温の場所で保存してください。
苗の入手と種苗法上の扱い
種子島紫は、苗やつるが一般の種苗会社から販売されており、家庭菜園でも栽培できます。
前述のとおり、種子島紫の在来系統も、種子島ゴールド・種子島ろまんも、育成者権が消滅しているため一般品種にあたります。一般品種の利用に、種苗法上の制限はありません。
ただし、さつまいも全般に同じことが言えるわけではない点にはご注意ください。たとえば登録品種「ふくむらさき」(品種登録番号28530)は現在も登録品種です。登録品種を自己の農業経営で自家用に増やす場合には育成者権者の許諾が要り、農研機構のかんしょ品種では無償ですが原則として手続きが必要とされています。増やした種苗を他の人へ譲る場合は、有償・無償を問わず別途の契約が必要です。一方、販売も譲渡もしない自家消費目的の家庭菜園は、そもそも種苗法の制限の対象外とされています。
ふくむらさき・パープルスイートロードとの違い
紫芋には、種子島紫のような在来系統と、試験研究機関が育成した品種の両方があります。同じ「紫芋」でも成り立ちが違うことを知っておくと、選ぶときの見通しがよくなります。
由来と役割で比べる
品種・系統 区分 由来 特徴
種子島紫 在来品種・在来系統群 種子島で受け継がれてきた 果肉は紫。皮色や食感に系統差がある
種子島ゴールド 育成品種(第7086号・1999年登録) 種子島紫からの選抜 皮は淡黄色、肉色は濃い紫
パープルスイートロード 育成品種(第12277号・2004年登録) 農研機構育成 青果用として広く普及。やや粉質
ふくむらさき 育成品種(第28530号・2021年登録) 農研機構育成(九系255×パープルスイートロード) 紫色が濃く、蒸しいも・焼きいもの糖度が高い
在来系統は地域の食文化とともに残ってきたもので、系統ごとの差がある程度残ります。対して育成品種は、収量や外観、食味といった目的をもって選抜・交配され、特性がそろうように整えられています。どちらが優れているというより、役割が違うと考えるのが自然です。
紫芋の品種を横断して見ると、それぞれの位置づけがさらに見えてきます。
よくある質問
種子島紫について、検索でよく見かける疑問にお答えします。
Q1. 種子島紫と種子島ゴールドは同じものですか?
同じではありません。種子島紫は種子島の紫肉の在来品種・在来系統に使われる名称で、種子島ゴールドはそこから選抜され、1999年に品種登録された品種です。ただし、種子島ゴールドが「種子島紫」の名前で売られることもあります。
Q2. 安納芋とはどう違いますか?
安納いもは黄肉(オレンジ系)、種子島紫は紫肉です。どちらも種子島の在来いもで、同じ選抜事業から品種が生まれたという共通点があります。
Q3. 焼酎の原料にもなりますか?
種子島紫は、菓子の加工用や焼酎の原料にも向くと紹介されることがあります。ただし、どの銘柄にどの品種が使われているかは公表されていないことも多く、本記事では特定の商品名には触れません。なお、アントシアニンは蒸留では留液に移らないため、紫芋を使っても焼酎そのものは基本的に無色透明です。20歳未満の飲酒は法律で禁止されています。
Q4. 種子島以外でも作られていますか?
苗が販売されているため、他地域でも栽培は可能です。ただし、農林水産省の品種別作付面積の統計に個別項目としては計上されておらず、統計上は「その他」に含まれる規模とみられます。
まとめ
種子島紫について、要点を整理します。
種子島紫は、種子島に伝わる紫肉の在来品種・在来系統に使われる名称です。果肉が紫色である点は共通しますが、皮の色は系統によって異なります
そこから選抜されたのが種子島ゴールド(第7086号)と種子島ろまん(第7085号)で、いずれも1999年3月17日に品種登録されました。育成者権はすでに消滅し、現在は一般品種にあたります
かつて島外へ出せなかったのは品種の問題ではなく、植物防疫法による移動規制(1990年〜1998年)によるものでした
売り場で「種子島紫」の表示を見かけたら、在来系統と選抜品種という二層構造を思い出していただくと、より納得して選べるはずです。
参考資料
- 上妻道紀ほか「カンショの品種'安納紅','安納こがね','種子島ろまん','種子島ゴールド'の育成」鹿児島県農業試験場研究報告 第31号(2003年)
- 農林水産省 品種登録データベース
- 鹿児島県「種苗法改正と県登録品種の取扱い」
- 農林水産省 植物防疫所「植物等の移動規制について」
- 農林水産省 地理的表示登録 第115号「種子島安納いも」
- 農林水産省「消費者の部屋」さつまいもの貯蔵
- 農研機構 品種詳細「ふくむらさき」
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