紫芋はなぜ紫色なのですか?

はじめに

紫芋(むらさきいも)を切ってみると、皮だけでなく果肉の断面まで鮮やかな紫色をしていて、驚いた方も多いのではないでしょうか。この美しい紫色のもとになっているのが「アントシアニン」という天然の色素です。

本記事では、紫芋が紫色になる理由について、アントシアニンという成分の正体から、pHで色が変わる仕組み、加熱したときの色の残りやすさ、健康にまつわる研究、品種による色の濃さの違いまで、わかりやすくご説明したいと思います。

紫芋が紫色になる理由

紫芋の鮮やかな紫色には、ある天然色素が深く関わっています。かぎを握るのは「アントシアニン」と呼ばれる成分です。ここではまず、その色素の正体と、皮だけでなく果肉の断面まで紫色になる理由を、順にご説明します。さつまいもといえば黄色い果肉を思い浮かべる方には、意外に感じられるかもしれません。

紫色の正体はアントシアニン

紫芋の紫色の正体は、アントシアニンというポリフェノールの一種の天然色素です。

アントシアニンは、ブルーベリーやナス、赤ワインなどにも含まれる水溶性の色素で、植物の細胞の中にある「液胞(えきほう)」という袋状の部分にたくわえられています。紫芋の紫色が濃く見えるのは、このアントシアニンを多く含んでいるためです。同じ紫芋でも品種によって紫の色味が少しずつ異なるのは、アントシアニンにいくつかの種類があり、その割合が違うことが関係していると言われています。

果肉まで紫色になる理由

紫芋が「紫芋」と呼ばれるいちばんの特徴は、皮だけでなく果肉の断面まで紫色である点です。

さつまいもの果肉色は、白・黄・橙・紫など品種によってさまざまです。黄色〜橙色の品種では、主にカロテノイドという別系統の色素(橙色を示す脂溶性の色素)が色合いに関わっています。一方、紫芋は果肉の細胞にもアントシアニンをたくわえているため、切っても中まで紫色が広がっています。この「果肉まで紫」という性質があるからこそ、加工しても自然な紫色を活かせるのです。紫芋そのものについては、紫芋全般の基礎知識もあわせてご覧ください。

アントシアニンとはどんな成分?

紫色のもとであるアントシアニンとは、そもそもどのような成分なのでしょうか。ここでは、その化学的な位置づけと、植物にとってどんな役割を果たしているのかを見ていきます。少し専門的な話になりますが、できるだけかみくだいてご説明します。

ポリフェノール(フラボノイド)の一種

アントシアニンは、ポリフェノールの中の「フラボノイド」というグループに属する色素です。

植物の中では、多くの場合、糖と結びついた「配糖体(はいとうたい/グリコシド)」という形で存在しています。水に溶けやすい性質(水溶性)を持つため、長時間水にさらすと色素が溶け出して色が抜けてしまうことがあります。これは、油に溶けやすいカロテノイドとは対照的な性質です。調理で紫芋の色をきれいに残したいときは、この水溶性という点を意識すると扱いやすくなります。

なお、本記事の紫芋は、さつまいも(Ipomoea batatas/ヒルガオ科)の紫肉品種を指します。沖縄で「紅いも(べにいも)」と呼ばれ、紅いもタルトなどに使われるものも、一般にはこのさつまいもの仲間です。一方、「ウベ」や「紅山芋(べにやまいも)」と呼ばれる紫色の芋は、ヤマノイモ科のダイジョ(Dioscorea alata)という別の種類を指すことがあります。

植物にとっての役割(防御色素)

アントシアニンは、植物にとって単なる「色」ではなく、身を守るための役割を担っていると考えられています。

紫外線や強い光にさらされる環境では、アントシアニンが増えることがあり、光によるストレスや酸化ストレスをやわらげることに関与すると考えられています。いわば植物にとっての防御色素のような存在です。秋になって葉が赤く色づく紅葉も、同じアントシアニンによるものとして知られています。身近なところでも、同じ色素がはたらいているのですね。

アントシアニンが色を変える仕組み(pH)

アントシアニンには、まわりの液性(pH)によって色を変えるという面白い性質があります。pHとは、酸性・中性・アルカリ性の度合いを表す指標です。ここでは、どんな条件で何色に変わるのかと、加熱したときに色が残りやすい理由をご説明します。お菓子作りや料理で色を活かすヒントにもなります。

酸性・中性・アルカリ性での色変化

アントシアニンは、pHによって中性で紫、酸性で赤〜ピンク、アルカリ性で青〜緑へと連続的に色を変えます。

たとえば、紫芋のペーストにレモン汁やお酢などの酸性のものを少し加えると、紫色が赤みがかったピンク色へと変化します。反対に、重曹や中華麺に使う「かんすい」などのアルカリ性のものに触れると、青〜青緑色に変わります。紫キャベツを使った焼きそばが青緑になるのと同じ原理です。ただし、強いアルカリ性のもとでは色素が分解して退色することもあります。実際の発色はpHだけでなく、共存する成分や温度によっても変わるため、色合いには幅がある点も覚えておくとよいでしょう。

加熱しても色が残りやすい理由

紫芋のアントシアニンは、比較的熱に安定で、加熱調理のあとも紫色が残りやすいとされています。

このため、焼きいもや蒸しいもはもちろん、スイートポテトやプリンなどのお菓子でも、自然な紫色をきれいに表現できます。合成着色料に頼らずに彩りを出せるのは、紫芋ならではの魅力です。ただし、長時間ゆでたり、ゆで汁に色素が溶け出したり、強いアルカリ性の条件が重なったりすると、色が薄くなることもあります。色を鮮やかに保ちたいときは、加熱しすぎず、水にさらす時間も短めにするのがおすすめです。

紫芋のアントシアニンと健康にまつわる研究

アントシアニンは色素であると同時に、ポリフェノールの一種として、健康機能との関連が研究されています。ここでは、どのような研究報告があるのかを、わかっている範囲でご紹介します。なお本サイトでは、効能を断定するのではなく、研究で示されている範囲にとどめて丁寧にお伝えする方針です。

抗酸化に関連して研究される成分

アントシアニンは、抗酸化(酸化を抑えるはたらき)に関連して研究されている成分の一つです(厚生労働省 e-ヘルスネット)。

たとえば、ビルベリー由来のアントシアニンについては、目の機能に関する届け出(機能性表示食品)が知られており、目の疲労感などを対象にした研究報告があります。なお、機能性表示食品は、事業者の責任で科学的根拠を届け出て表示する制度であり、国が個別に効果を審査・保証するものではありません。また、これはビルベリー抽出物という別の素材を、決められた量で用いた場合の内容です。通常の食事で紫芋を食べた場合に同じ結果が得られるかどうかは、また別の話であり、さらに検証が必要とされています。気になる健康上のことがある場合は、自己判断で頼りすぎず、医師や管理栄養士にご相談ください。

「ブルーベリーの◯倍」の正しい読み方

紫芋のアントシアニン量について、「ブルーベリーの数倍」といった比較を目にすることがあります。

しかし、アントシアニンの含有量は品種や分析の条件によって大きく変わるため、「常に何倍」と断定することはできません。実際、紫芋を使った加工食品の分析でも、含有量には大きな幅があることが報告されています。ある資料で紹介される倍数はあくまで一例として受け止め、数字だけが独り歩きしないよう注意するのがよいでしょう。

アントシアニンが濃い紫芋の品種

ひとくちに紫芋といっても、アントシアニンの量や色の濃さは品種によってさまざまです。ここでは、色の濃さの目安となる「色価(しきか)」という考え方と、代表的な品種、そして色を活かす楽しみ方をご紹介します。品種選びの参考にもなります。

品種で色の濃さ(色価)は異なる

紫芋の色の濃さは、「アントシアニン色価」という色素量の指標であらわされ、品種によって差があります。代表的な品種を、色の濃さの傾向と主な用途で整理すると次のとおりです。

品種色の濃さの傾向主な用途
アヤムラサキ非常に濃い色素・加工用
パープルスイートロード中程度食用(多収で普及)
ふくむらさき濃い食用(しっとりした食感)

「ふくむらさき」は農研機構が育成した品種で、アントシアニン色価がパープルスイートロードを上回ると報告されています(農研機構)。品種ごとの詳しい特徴は、色の濃い品種の代表例「ふくむらさき」の記事でご紹介しています。

色を活かす楽しみ方

紫芋の濃い紫色は、食卓やお菓子に自然な彩りを添えてくれます。

スイートポテトやモンブラン、パンやクッキーの生地の色づけなど、使い方はさまざまです。pHで色が変わる性質を利用すれば、レモン汁でピンクに寄せるといった演出も楽しめます。お好みや用途に合わせて、色の変化そのものを味わってみてはいかがでしょうか。

よくある質問

紫芋の色に関して、よく寄せられる疑問をまとめました。調理や下ごしらえのちょっとした場面で役立つ内容です。

Q1. 紫芋を切ると手や皮膚に色がつきますか?
アントシアニンは水溶性のため、切った断面に触れると一時的に手に色がつくことがあります。多くは水で洗えば落ちますので、気になる場合は手早く洗い流してください。

Q2. 水にさらすと色が抜けますか?
はい。アントシアニンは水に溶け出しやすい性質があります。アク抜きなどで水にさらす場合は、色を残したいなら短時間にとどめるのがおすすめです。

Q3. 加熱すると色は消えてしまいますか?
紫芋のアントシアニンは比較的熱に安定なため、加熱後も紫色が残りやすいです。ただし、長時間の加熱や強いアルカリ性の条件では退色することがあります。

Q4. 同じ紫芋でも品種で色味が違うのはなぜですか?
アントシアニンにはいくつかの種類があり、青みが強いタイプと少ないタイプがあります。品種によってその割合が異なるため、同じ紫芋でも紫の色味に違いが出ると言われています。

まとめ

最後に、この記事の要点を振り返ります。

紫芋が紫色である理由は、アントシアニンというポリフェノールの一種の天然色素を、皮だけでなく果肉にも含んでいるためです。アントシアニンはpHによって色を変え(中性で紫、酸性でピンク、アルカリ性で青緑)、加熱には比較的安定という性質を持ちます。また、色の濃さは品種によって異なり、健康にまつわる研究も進められています。紫芋の魅力をもっと知りたい方は、紫芋とはどんなさつまいもかの記事もぜひご覧ください。

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