秋になると、店頭やスイーツ売り場で鮮やかな紫色のおいもを見かけます。「紫芋(むらさきいも)」という名前は知っていても、普通のさつまいもと何がどう違うのかは、意外と説明しにくいのではないでしょうか。

結論から申し上げると、紫芋は別の野菜ではなく、果肉が紫色をしたさつまいもの総称です。パープルスイートロードやふくむらさきなど、複数の品種があります。ただし、色のもとになる成分や甘さの傾向、栄養の中身には、資料で確かめられる違いがあります。

本記事では、紫芋と普通のさつまいもの違いを、見た目・味・栄養・使い方の4つの観点から、農研機構や日本食品標準成分表などの一次情報をもとに、わかりやすくご説明したいと思います。

紫芋とは|果肉まで紫色のさつまいもの総称

まずは、紫芋がどんなおいもなのかを整理します。紫芋は特定の一品種を指す言葉ではなく、果肉まで紫色を帯びたさつまいもをまとめて呼ぶ総称です。名前が似ている「紅芋」「ウベ」との関係もここで押さえておくと、このあとの違いの話がすっきり読めます。

紫芋の定義と分類

紫芋とは、皮だけでなく断面(果肉)まで紫色を帯びたさつまいもの総称です。

学名は Ipomoea batatas(イポメア・バタタス)で、ヒルガオ科サツマイモ属に分類されます。つまり、普通のさつまいもとまったく同じ種にあたり、違うのは品種です。

果肉まで紫色になるのは、アントシアニンという天然の色素を果肉に多く含むためです。アントシアニンはポリフェノールの一種で、植物の赤や紫の色に関わる色素です。ブルーベリーやナス、赤ワインなどにも含まれています。

なお「紫芋」は、特定の一品種の名前ではありません。パープルスイートロードやふくむらさきなど、紫色の果肉をもつ複数の品種をまとめた呼び方です。

「紅芋」「ウベ」との呼び分け

紫芋の話題では、「紅芋(べにいも)」や「ウベ」といった、よく似た名前の芋が登場します。

沖縄で「紅芋」と呼ばれ、紅いもタルトなどに使われるものは、一般にはこの紫芋、つまりさつまいもの紫肉品種です(農林水産省 植物防疫所)。

一方、「ウベ」や「紅山芋(べにやまいも)」と呼ばれる紫色の芋は、ヤマノイモ科のダイジョ(大薯)を指すことがあります。また沖縄の「田芋(ターンム)」はサトイモ科で、里芋の仲間です。いずれも、さつまいもとは分類が異なります。

なお、沖縄県などの規制地域では、生のさつまいも(紅芋を含む)や、その苗・つるを規制地域の外へ移動させることに制限があります。規制の対象は都道府県の境界で決まるのではなく、病害虫の発生状況に応じて地域ごとに定められています。呼び名の整理と規制の詳しい内容は、紫芋と紅芋の違いを呼び名・産地・持ち出し規制で整理した記事でご説明しています。

紫芋と普通のさつまいもの違いを一覧で整理する

ここからが本題です。紫芋と普通のさつまいもの違いは、大きく「色」「甘さの傾向」「栄養の中身」「主な用途」の4点に整理できます。まずは全体像を一覧で示し、そのうえで売り場での見分け方をご説明します。細かい数字は、このあとのセクションで一つずつ確かめていきます。

4つの観点で比べた一覧表

次の表は、紫芋と一般的な黄肉のさつまいもの違いを、おおまかな傾向としてまとめたものです。あくまで全体の傾向であり、品種によって幅がある点を先にお断りしておきます。

観点紫芋普通の(黄肉)さつまいも
果肉の色紫〜濃い紫黄色〜淡い黄色
色のもとになる色素アントシアニン(水溶性)カロテノイドなど(脂溶性)
甘さの傾向従来は控えめとされてきた/甘い品種も登場甘さを重視した品種が多い
主な用途青果のほか、菓子・色素・焼酎などの加工焼きいも・ふかしいもなどの青果が中心
加熱後の色紫色が残りやすい黄色〜濃い黄色

このうち甘さと栄養については、「紫芋のほうが甘くない」「紫芋のほうが栄養が多い」といった通説が広まっています。本当にそう言えるのかを、このあと一次情報の数字で確かめていきます。

見分け方|皮の色だけでは判断できない

売り場で紫芋を見分けるとき、皮の色を手がかりにする方は多いのではないでしょうか。ただ、皮の色だけで判断するのは確実ではありません。

紫芋の多くは皮も赤紫色ですが、皮が白っぽく、果肉だけが濃い紫という品種もあります。鹿児島・種子島の「種子島ゴールド」はその一例です。

反対に、皮が赤紫色をしていても果肉は黄色というさつまいもは、店頭でよく見かけます。皮の色と果肉の色は、必ずしも対応していないのです。

確実なのは、断面を見ることです。紫芋は皮の内側から中心まで紫色が広がっているため、切り口を見れば一目で分かります。売り場で切り口が見える状態になっていればそこで判断できますし、分からない場合は品種名の表示を確認するのが確実です。

加熱したあとの色も手がかりになります。紫芋のアントシアニンは比較的熱に安定で、蒸したり焼いたりしても紫色が残りやすいためです。

味と食感の違い|「紫芋は甘くない」は品種による

紫芋について最もよく言われるのが、「普通のさつまいもより甘くない」という説です。これは半分当たっていて、半分は当たっていません。ここでは、同じ試験の中で比べられた糖度の数値、食感の傾向、そして「甘くない」と感じる場面がある理由を、順にご説明します。

同じ試験で比べた蒸しいものBrix

甘さを比べるときに難しいのは、試験の条件がそろっていないと数字を並べられないことです。

農研機構の研究成果情報「高糖度で食味が優れる、紫肉カンショ新品種候補系統『九州165号』」の表1には、育成地で同じ試験にまとめられた蒸しいものBrix(糖度の指標)が掲載されています。

品種・系統果肉の色蒸しいものBrix
九州165号(のちのふくむらさき)紫21.6
高系14号(標準品種)黄白16.4
パープルスイートロード淡紫13.1

(農研機構 研究成果情報 表1/育成地・2009〜2011年および2013〜2017年)

標準として置かれている高系14号は、果肉が黄白色、つまり黄肉のさつまいもです。

この表を見ると、紫芋のパープルスイートロードは黄肉の高系14号を下回る一方で、同じ紫芋の九州165号(のちのふくむらさき)は上回っています。「紫芋は甘くない」と一律には言えないことが分かります。

なお、この表には「育成地の蒸しいも特性調査は、収穫から約2週間後に実施したもの。蒸しいもBrixは換算値。」という注記が付いています。Brixは糖以外の成分の影響も受けるため、甘さの目安として受け止めるのが適切です。また、これは育成地における一つの試験の結果であり、紫芋全般と黄肉のさつまいも全般を比べたものではありません。

しっとりとした食感と甘さをあわせもつ紫芋として育成された品種については、ふくむらさきの特徴を解説した記事で詳しくご紹介しています。甘さの根拠となる試験データの読み方は、ふくむらさきの味を試験データから読み解いた記事でも整理しました。

食感の傾向と、その幅

食感についても、紫芋と黄肉のさつまいもをまとめて比べるのは難しいところがあります。

さつまいもの食感は、粉質の「ホクホク系」と、粘質の「しっとり系」に大きく分かれます。これは紫芋のなかでも同じです。

先ほどと同じ表1では、蒸しいもの肉質がパープルスイートロードは「やや粉質」、九州165号は「中」と評価されています。ふくむらさきは、しっとりとした食感が特徴とされる品種です。

「紫芋はホクホク」「紫芋はしっとり」といった説明を見かけますが、どちらも品種を限定しない言い方であり、正確ではありません。食感は、紫色かどうかではなく品種で決まると考えるほうが、実態に近いといえます。青果用の紫芋として長く知られてきた品種の特性は、パープルスイートロードの特徴を解説した記事でご確認いただけます。

「甘くない」と感じる場面がある理由

では、なぜ「紫芋は甘くない」という説がこれほど広まっているのでしょうか。

理由のひとつは、紫芋には甘さよりも色素の量や収量を重視して育てられた品種があることです。2017年度にまとめられたこの研究成果情報も、色素原料用のアヤムラサキや焼酎原料用のムラサキマサリについて、原料としての特性は優れるものの食味が劣り、蒸しいもや焼きいもとして食べるには不向きだと説明しています。

同じ資料は、青果用の紫芋として長く知られてきたパープルスイートロードについても、その時点で黄肉のカンショに比べると甘味が不足していると記しています。食味の良い紫肉品種を求める声が高まったことが、ふくむらさきの育成につながりました。

用途ごとに品種がどう分かれているかは、紫芋の品種を色・甘さ・用途で比較した一覧で整理しています。

栄養の違い|日本食品標準成分表で比べる

栄養についても、「紫芋のほうが栄養が豊富」という説をよく見かけます。日本食品標準成分表には「むらさきいも」という専用の項目があるため、同じ条件のさつまいもと数字を並べて比べることができます。ここでは、その結果を表で確かめ、読み取れることを整理します。

「むらさきいも」と「さつまいも」を同じ条件で比べる

比較の前に、条件をそろえておきます。

成分表の「むらさきいも」は、塊根の皮なし(生)と、皮なし(蒸し)の2つが収載されています。皮つきの項目はありません。そこで、比べる相手も皮なしのさつまいもを選びます。

次の表は、いずれも可食部100gあたり、皮なし・生の値です。

項目むらさきいも(02048)さつまいも(02006)
エネルギー123kcal126kcal
炭水化物31.7g31.9g
食物繊維総量2.5g(水溶性0.8/不溶性1.7)2.2g(水溶性0.6/不溶性1.6)
カリウム370mg480mg
カルシウム24mg36mg
銅0.21mg0.17mg
β-カロテン当量4µg28µg
ビタミンE(α-トコフェロール)1.3mg1.5mg
ビタミンB60.18mg0.26mg
葉酸22µg49µg
ビタミンC29mg29mg

(日本食品標準成分表(八訂)増補2023年から引用。カッコ内は食品番号)

ここで一点、大切な注意があります。成分表の「むらさきいも」は、品種名を分けずに収載された項目です。ふくむらさきなど個々の品種の値としてそのまま当てはめることはできないため、比較の目安としてご覧ください。

表から読み取れること

表を上から見ていくと、通説とは少し違う姿が見えてきます。

まず、エネルギーはほぼ同じです。123kcalと126kcalで、差は3kcalにすぎません。ビタミンCにいたっては、どちらも29mgで同じ値です。

次に、紫芋のほうが多い項目です。食物繊維総量は2.5gと2.2g、銅は0.21mgと0.17mgで、いずれも紫芋がやや上回っています。

一方で、黄肉のさつまいもが上回る項目もあります。カリウムは480mgと370mg、葉酸は49µgと22µg、ビタミンB6は0.26mgと0.18mgで、いずれも黄肉のほうが多くなっています。

とくに差が大きいのがβ-カロテン当量で、28µgと4µgです。β-カロテンは、黄色〜橙色を示すカロテノイドという色素の一種です。

ただし、この数字だけで果肉の色の違いを説明できるわけではありません。農研機構は、黄肉色のさつまいものカロテノイドの主成分は、β-カロテンそのものではなく、β-カロテンやβ-クリプトキサンチンがエポキシ化された成分であると報告しています。

成分表のβ-カロテン当量は、果肉に含まれる色素全体の量を表す数値ではありません。色の違いは、数値の大小ではなく、色素の系統そのものが異なることとして捉えるのが正確です。

つまり、「紫芋のほうが栄養が豊富」とは言い切れません。項目によって、多い側が入れ替わります。

アントシアニンは成分表に載っていない

ここまでの表には、紫芋の最大の特徴であるアントシアニンが出てきません。

日本食品標準成分表には、アントシアニンという項目そのものがないためです。つまりこの表では、紫芋らしさにあたる部分を比べることができません。紫芋と普通のさつまいもの違いのうち、色にかかわる部分は成分表の外にあると考えるとよいでしょう。

アントシアニンは、抗酸化に関連して研究されている成分です。ただし、成分を含むことと、食べて特定の効果が得られることは別です。健康上の心配がある方や持病のある方は、医師や管理栄養士にご相談ください。

色が生まれる仕組みそのものについては、紫芋が紫色になる理由の記事で詳しくご説明しています。

選び方・調理・保存に違いはあるか

ここまで違いを見てきましたが、買い方と保存については、紫芋だからといって特別な注意はほとんどありません。さつまいもとして扱えば十分です。違いが出るのは、調理で「色」をどう残すかという点です。この2つを分けてご説明します。

選び方と保存は、さつまいもと同じでよい

選ぶときの目安も、普通のさつまいもと変わりません。皮にハリがあり、しなびや傷、傷んだ部分が目立たないものを選ぶとよいでしょう。

保存で注意したいのは、さつまいもが低温に弱いことです。ここでご説明するのは、生の、丸ごとの芋の保存についてです。切ったものや加熱したものはこの目安が当てはまりませんので、早めに使い切ってください。

生の、丸ごとの紫芋は、冷蔵庫での保存には向きません。農林水産省は、さつまいもの貯蔵温度の目安を13〜14℃とし、9℃以下では腐敗しやすく、15℃を超えると皮色の劣化や萌芽が起こりやすいと説明しています。

家庭では、新聞紙などに包んで保存します。冷やしすぎと高温の両方を避けたいので、夏場の暑い室内や、冬に冷え込む場所は向きません。温度変化の少ない場所を選んでください。

カビや変色、傷みが見られるものは、無理に食べないようにしてください。

違いが出るのは「色」の扱い

調理では、紫芋ならではの注意が一つあります。アントシアニンは水に溶けやすい性質をもつため、長く水にさらすと色が抜けてしまうことです。

アク抜きなどで水にさらす場合は、短時間にとどめると色が残りやすくなります。

また、加熱の方法によっても、色の残り方や味の感じ方は変わります。焼くのと蒸すので味や色が変わるかを比べた記事もご用意しています。

色を活かした使い方としては、スイートポテトやモンブラン、パンや生地の色づけなどがあります。加熱しても紫色が残りやすい性質は、紫芋が選ばれる理由のひとつです。

よくある質問

最後に、紫芋と普通のさつまいもの違いについて、よく寄せられる質問をまとめました。ここまでの要点を、質問の形で振り返ります。

Q1. 紫芋と普通のさつまいも、どちらが甘いですか?

品種によります。農研機構の資料では、同じ表の中に、黄肉の標準品種(高系14号)を下回る紫芋(パープルスイートロード)と、上回る紫芋(九州165号)の両方が示されています。「紫芋だから甘くない」とは言えません。

Q2. 紫芋のほうが栄養は多いのですか?

項目によって入れ替わります。日本食品標準成分表(八訂)増補2023年では、食物繊維や銅は紫芋がやや多い一方、カリウム・葉酸・β-カロテン当量は黄肉のさつまいものほうが多くなっています。エネルギーとビタミンCは、ほぼ同じです。

Q3. 紫芋の旬はいつですか?

さつまいもと同じく、秋から冬が中心です。ただし、収穫の時期も店頭に並ぶ時期も、品種・産地・貯蔵の条件によって前後します。具体的な月については、産地や品種によって差があります。

Q4. 生の紫芋を見かけにくいと感じるのはなぜですか?

紫芋には、甘さよりも色素の量や収量を重視して育てられた加工用の品種があり、色素やペースト、焼酎などの原料に使われています。一方で、青果として楽しめる品種も育成されています。店頭での見かけやすさは、地域や時期によっても変わります。

まとめ

最後に、紫芋と普通のさつまいもの違いを振り返ります。この記事で確かめた4つの観点を押さえておくと、売り場でも迷いにくくなります。

紫芋は別の野菜ではなく、果肉まで紫色を帯びたさつまいもの品種の総称です。学名も分類も、普通のさつまいもと同じです。

違いがはっきり出るのは、まず色です。紫芋はアントシアニン、黄肉のさつまいもはカロテノイドと、色のもとになる色素の系統そのものが異なります。

甘さは品種によって幅があり、黄肉の標準品種を下回る紫芋も、上回る紫芋もあります。「紫芋は甘くない」と一律には言えません。

栄養は、項目によって多い側が入れ替わります。「どちらが優れている」という比べ方には向かない、と考えるのが正確でしょう。

選び方や保存は、さつまいもと同じ考え方で差し支えありません。用途やお好みに合わせて、紫芋を楽しんでみてはいかがでしょうか。どの地域でどの品種が作られているかは、紫芋の産地をまとめた記事でご確認いただけます。

※20歳未満の飲酒は法律で禁止されています。

ふくむらさきどっとこむ