「紫色のさつまいもは甘くない」というイメージをお持ちの方は、少なくないのではないでしょうか。ところが、2021年に品種登録された「ふくむらさき」は、蒸しいもや焼きいもの糖度が「べにはるか」並みに高いと報告されている紫芋(むらさきいも)です。

とはいえ、実際にどのくらい甘いのか、食感はホクホク系かしっとり系かという点は、紹介するサイトによって書かれ方がまちまちです。数値だけがひとり歩きしている場面も見かけます。

本記事では、農研機構と茨城県の試験データをもとに、ふくむらさきの味と食感を、測定条件とセットでわかりやすくご説明したいと思います。品種そのものの基本情報はふくむらさきとはどんな品種かを解説した記事にまとめています。

ふくむらさきはどんな味?

ふくむらさきの味は、蒸しいも・焼きいもの糖度が「べにはるか」並みに高く、食感はしっとり系であるのが特徴です。従来の紫芋(むらさきいも)とは印象の異なる品種として注目されています。ここではまず結論にあたる部分を押さえ、そのうえで、これまでの紫芋とどこが違うのかを見ていきます。

甘さは「べにはるか並み」、食感は「しっとり系」

ふくむらさきを育成した農研機構は、この品種を次のように説明しています。蒸しいもや焼きいもにしたときの糖度は「べにはるか」並みに高く、肉質は中〜やや粘質でしっとりとした食感である、という内容です(農研機構プレスリリース 2018年11月15日)。

「べにはるか」は、甘いさつまいもの代表格として知られる黄肉の品種です。紫芋ではありませんが、甘さの比較基準としてよく登場します。紫肉の品種がその水準の甘さに達したことが、ふくむらさきが話題になった理由といえます。

食感の分類でいえば、ふくむらさきは「しっとり系」に入ります。ホクホク系の紫芋が多かったなかで、加熱するとなめらかな口当たりになるタイプです。

従来の紫芋のイメージとどこが違うのか

ふくむらさきが生まれた背景には、紫芋の食味に対する評価がありました。農研機構によると、2018年当時、沖縄県を除く地域で食用として最も普及していた紫肉品種は「パープルスイートロード」でしたが、黄肉のさつまいもに比べて食味の評価が低かったとされています。

そこで、食味の優れる黄肉系統「九系255」を母、「パープルスイートロード」を父として交配し、育成されたのがふくむらさきです。つまり、甘さの改善そのものが育種の目的だった品種といえます。

ただし、紫芋がすべて甘さ控えめというわけではありません。品種によって甘さも食感も幅がありますので、一律のイメージで捉えないほうが実態に近いといえます。品種ごとの違いは紫芋の品種を色・甘さ・用途で比較した記事にまとめています。

焼きいもの試験データで見る「甘さ」

ふくむらさきの甘さについては、茨城県農業総合センター農業研究所が焼き芋の試験結果を公表しています。糖度の数値と、食べた人の評価の両方が同じ表にまとめられている資料です。ここでは、その中身を測定条件とあわせて確認していきます。

焼きいものBrixは21.5、パープルスイートロードは18.1

茨城県農業総合センター農業研究所の成果情報「甘味が強く食味に優れる紫いも品種「ふくむらさき」」には、焼き芋の糖度として、ふくむらさきがBrix値21.5、パープルスイートロードが18.1と示されています。

Brix値(ブリックス値)とは、糖度計で測った値のことです。光の屈折率の違いを利用して測定するもので、測定対象がショ糖の溶液である場合には、20℃におけるショ糖の重量パーセントを表します(農研機構技報No.7 用語解説)。

この試験の条件は、次のとおりです。

  • 試験実施日:平成29年(2017年)1月31日
  • パネラー(評価者):18名
  • 調製方法:200℃で1時間かけて焼き芋に加工

数値だけを取り出すと「ふくむらさきは糖度21.5度」と読めてしまいますが、実際にはこの焼成条件・この年次の試験値です。この点は押さえておきたいところです。

官能評価は「甘みの評価+2.00」「肉質+2.28」

同じ表には、食味の官能評価も載っています。こちらは絶対点ではなく、パープルスイートロードを基準(0)とした相対評価である点が重要です。

評価項目ふくむらさき評価の尺度
Brix値21.5(PSLは18.1)糖度計の実測値
肉色−0.56(有意差なし)悪い −5 〜 良い 5
肉質+2.28(有意差あり)粉質 −5 〜 粘質 5
甘み+2.00(有意差あり)悪い −5 〜 良い 5
総合評価+1.22(有意差あり)悪い −5 〜 良い 5

※ 出典:茨城県農業総合センター農業研究所。有意差はt検定によるもので、「有意差あり」は有意水準1%で差が認められた項目です。統計の用語ですが、「偶然では説明しにくい差が認められた」という意味だとお考えください。

読み方のポイントは2つあります。

ひとつは、肉質の +2.28 が、パープルスイートロードを0としたときに平均で2.28ポイント粘質側だったという意味であることです。ふくむらさき単独の絶対的なスコアではありません。良い・悪いの評価ではなく、粉質か粘質かという方向を示している点にもご注意ください。

もうひとつは、甘みの尺度が「悪い−5〜良い5」であることです。甘さの強度そのものではなく、甘みに対する評価を表しています。したがって「甘みの評価がパープルスイートロードより高かった」と読むのが正確です。

なお、農研機構のプレスリリースにも焼きいもの食味官能評価の図が載っていますが、こちらは16名のパネラーによる5段階評価(甘さは「弱い」〜「大変強い」)で、試験実施日は2016年12月21日です。尺度も実施日も異なる別の試験ですので、混同しないようご注意ください。

数値を読むときの3つの注意

こうした数値は便利ですが、そのまま鵜呑みにすると実感とずれることがあります。次の3点を添えて読むのが適切です。

第一に、蒸しいもや焼きいもを試料とする場合、Brix値は糖以外の成分の影響も受けることが知られています(農研機構)。あくまで甘さの目安です。

第二に、官能評価の数値は相対評価であり、他品種との比較にそのまま転用できません。

第三に、これは特定の年次・特定の焼成条件による試験の値です。栽培条件や貯蔵期間が変われば、数値も変わります。

比較対象となった品種については、パープルスイートロードの特徴を解説した記事もあわせてご覧いただくと理解が深まります。

蒸しいもと焼きいもで「差」の見え方が変わる

ふくむらさきの糖度には、蒸しいもの数値と焼きいもの数値の両方が流通しています。この2つは出典も試験も別物で、パープルスイートロードとの差の大きさもかなり違います。混同しやすい部分ですので、整理しておきます。

蒸しいもは21.6対13.1、焼きいもは21.5対18.1

農研機構技報No.7(2020年)の「蒸しいも特性」の比較表には、糖度(Brix%)としてふくむらさき21.6、パープルスイートロード13.1という試験値が示されています。育成地で標準栽培したいもの値です。一方、先ほどの茨城県の焼き芋の値は21.5対18.1でした。

調理法ふくむらさきパープルスイートロード出典
蒸しいも21.613.18.5農研機構技報No.7(2020年)
焼きいも21.518.13.4茨城県農業総合センター農業研究所

※ 蒸しいもの値は育成地で標準栽培したいもの試験値です。農研機構が公表している蒸しいも糖度の平均値は2009〜2011年および2013〜2017年に標準栽培したものの平均とされ(プレスリリース図2の注記)、焼きいもの茨城県の値は2017年1月31日の単年の試験値です。複数年の平均値と単年の値を横に並べている点にご注意ください。

はじめにお断りしておくと、この2つは実施機関・試験年次・調製条件のいずれも異なるため、そのまま並べて比較できる数値ではありません。それぞれの試験のなかで、パープルスイートロードとの差がどうだったかを見るための表です。

そのうえで目を引くのが、パープルスイートロード側の数値の開きです。蒸しいもでは13.1、焼きいもでは18.1と報告されており、その結果、ふくむらさきとの差は8.5と3.4で2倍以上の違いになっています。数値を引用するときに蒸しと焼きを取り違えると、印象が大きく変わってしまう理由がここにあります。

「収穫後約4カ月貯蔵」という条件

農研機構のプレスリリースには、焼きいも糖度の平均値について「収穫後、約4カ月貯蔵した後に試験を実施」という注記が添えられています。蒸しいも糖度の図には、この注記がありません。

さつまいもは、貯蔵期間によって糖やでん粉の含量が変わることが報告されています(安藤利夫ら 2018・園芸学研究/農研機構技報No.7 の参考文献より)。ただし、ふくむらさきについて貯蔵期間と糖度の関係を測った資料は確認できていませんので、ここでは一般的な傾向としてお読みください。

なお、ふくむらさきの貯蔵性は農研機構の特性表で「やや易」とされています。加熱の仕方や食べる時期による味の変化については、甘さと紫色を活かす食べ方のコツでも扱っています。

「しっとり(やや粘質)」という食感の中身

ふくむらさきの食感は、資料によって「しっとり」「ねっとり」「ホクホク感もある」と表現が割れています。読者としては迷うところです。ここでは、育成試験の一次資料が何を示しているかを確認したうえで、評価が割れている場合の読み方を整理します。

一次資料が示す肉質

農研機構はふくむらさきの肉質を「中〜やや粘質」と説明し、焼きいもの食味官能評価では、パープルスイートロードと比べて肉質はやや粘質で、食感および甘さが優れ、総合評価が優れると評価しています。

茨城県の試験でも、肉質の相対評価は粘質側に +2.28でした。表現は違いますが、2つの機関の資料はいずれも「粉質より粘質側」を指していることになります。

したがって、ふくむらさきの食感は「しっとり系(やや粘質)」と捉えるのが、一次資料に沿った理解です。

評価が割れている場合の読み方

一方、実際に食べた方のレポートでは、「ねっとり」と書かれることもあれば、「しっとりの中にホクホク感もある」と書かれることもあります。

育成試験と家庭の調理とでは、加熱方法・加熱時間・貯蔵期間・産地といった条件がそろっていません。ただし、どの条件が評価の違いを生んでいるかを検証した資料は確認できていませんので、ここでは原因を特定せず、条件が異なるという事実だけを押さえておきます。

そのうえで本記事では、育成試験や品種登録の情報を品種の特性として扱い、実食のレポートは参考情報として位置づけます。評価の条件が示されていない記述を、試験記録と同じ重みでは扱えないためです。

なお、香りについて条件をそろえて評価した資料は確認できていません。ホクホク系がお好みか、しっとり系がお好みかも人によって違いますので、最後は食べ比べて確かめるのがいちばん確実だと思われます。

濃い紫色は味に関係する?

ふくむらさきは、パープルスイートロードより濃い紫肉色であることも特徴とされています。色が濃いと味も濃いように感じられますが、試験データを見ると、色と食味の評価は必ずしも連動していません。ここではその関係を確認します。

アントシアニン色価はパープルスイートロードの約1.4倍

紫芋の紫色は、アントシアニンという水溶性の天然色素によるものです。色素の濃さを示す指標を「色価(しきか)」といいます。

茨城県農業総合センター農業研究所の成果情報では、ふくむらさきのアントシアニンの色価はパープルスイートロードに比べて約1.4倍とされています。農研機構の品種特性でも、色価はパープルスイートロードを上回ると記載されています。

なお、色価は品種だけでなく栽培条件や分析方法によっても変わります。倍数はこの試験での比較値として捉えるのが適切です。紫色になる仕組みそのものは紫芋が紫色になる理由の記事でくわしくご説明しています。

焼きいもの「肉色」の評価には有意差が認められなかった

興味深いのは、茨城県の官能評価で肉色の評価が −0.56 で、統計的な有意差が認められなかった点です。甘み・肉質・総合評価には有意差があったのと対照的です。

ここで注意が必要なのは、「有意差が認められなかった」が「差がない」という意味ではないことです。この試験で言えるのは、肉色の好ましさの評価について、統計的に意味のある差を検出できなかったということにとどまります。

またこの肉色の項目は、色の濃さを機器で測ったものではなく、評価者が「悪い−5〜良い5」で採点した好みの評価です。色素量の測定値である色価と、見た目の好ましさの評価は、別の指標として扱う必要があります。

小ぶりないもが品種になった背景

ふくむらさきを実際に手に取ると、いもがやや小さめだと感じられることがあります。これは平均的に小ぶりになりやすいという品種の特性によるものです。ただし、いもの大きさは株間・施肥・栽培期間などでも変わり、茨城県はこれらの管理によって収量が改善するとしています。味の話とも関わりますので、育成データから背景を見ておきます。

上いも1個重127g、収量は標準比81%

農研機構が育成地(九州沖縄農業研究センター都城研究拠点)で実施した試験の平均値は、次のとおりです。

品種名上いも収量(kg/a)標準比(%)上いも1個重(g)株当り上いも数
ふくむらさき201811274.2
高系14号(標準)2491001923.5
パープルスイートロード2981201944.2

※ 2009〜2011年、2013〜2017年の平均値。上いもは重さ50g以上のいもを指します。

1個あたりの重さは、標準品種のおよそ3分の2にとどまります。茨城県の資料でも、収量はパープルスイートロードの約6〜7割とされています。

収量より食味を選んだ品種

収量が少ないことは、生産者にとっては不利な条件です。それでも育成が進められた背景として、農研機構は、食味の良い紫肉色のサツマイモ品種を求める生産者・実需者の声が高まっていたことを挙げています。

農研機構は、いもが小さめで収量が少ないことから、早掘りを避けて十分な生育期間を確保する必要があるとしています。茨城県はさらに具体的で、在圃日数(ざいほにっすう=苗を植えてから収穫するまで畑に置く日数)を150日以上確保し、収穫時期を10月下旬以降とする栽培法を示しています。

ここで注意したいのは、農研機構も茨城県も、生育期間を確保する理由として挙げているのはいもの肥大と収量の確保であって、糖度が上がることではない点です。生育期間の長さがふくむらさきの糖度をどれだけ変えるかを比較した試験は、確認できていません。

よくある質問

ふくむらさきの味について、検索でよく見かける疑問をまとめました。一次情報で確認できる範囲と、確認できない範囲を分けてお答えします。

Q1. べにはるかとどちらが甘いですか?

農研機構は、ふくむらさきの蒸しいも・焼きいもの糖度は「べにはるか」と同程度としています。どちらが上かを示す資料は確認できていませんので、順位づけはせず「同程度」と捉えるのが適切です。なお「べにはるか」は黄肉の品種で、紫芋ではありません。

Q2. 安納芋より甘いですか?

2026年に、安納いも・べにはるか・ふくむらさきを含む11品種を同じ農場で同じ日に植え付け・収穫し、同じ条件で蒸して遊離糖を分析した研究が発表されました(Honda ら/Journal of Applied Glycoscience 73巻2号・2026年)。

ただしこの研究は、蒸しいもの糖組成から相対甘味度を計算したもので、焼きいもや官能評価による比較ではありません。試料は収穫後2週間以内のもので、各品種3本です。論文が相対甘味度の高い傾向として挙げているのは安納いも・ひめあやか・兼六・たまゆたか、低い傾向として挙げているのはべにまさり・高系14号・シルクスイートで、ふくむらさきはどちらにも挙げられていません

焼きいもで条件をそろえた比較データは、現時点では確認できていません。

Q3. 甘くない、水っぽいと感じたのはなぜでしょうか?

原因を特定できる資料は確認できていません。茨城県の栽培指針では在圃日数150日以上とされていますが、これは収量を確保するための基準であり、生育期間と糖度の関係を示したものではありません。加熱方法や個体差によっても感じ方は変わりますので、一度の印象で判断しないのが無難だと思われます。

Q4. 焼きいもと蒸しいも、どちらが甘くなりますか?

ふくむらさきの試験値は焼きいも21.5、蒸しいも21.6とほぼ同じですが、この2つは実施機関も条件も異なる別の試験です。そのまま比べて優劣を判断することはできません。調理法による味や色の違いの一般的な傾向は、紫いもを焼くのと蒸すのでどう変わるかの記事でご説明しています。

まとめ

ふくむらさきの味は、数値そのものよりも、その数値がどんな条件で測られたかを知ることで、より正確に捉えられます。ここまで見てきた内容を、出典と条件つきで整理します。買う前の目安としてお使いいただければと思います。

  • 蒸しいも・焼きいもの糖度は「べにはるか」並みに高いと農研機構が評価している
  • 焼き芋の試験ではBrix値21.5(パープルスイートロードは18.1)。2017年1月31日・パネラー18名・200℃で1時間という条件つきの値
  • 官能評価はパープルスイートロードを基準とした相対評価で、甘みの評価 +2.00、肉質 +2.28(粘質側)、総合評価 +1.22
  • 食感は農研機構・茨城県のいずれの資料も粘質側を示しており、「しっとり系(やや粘質)」と捉えるのが正確
  • アントシアニン色価は約1.4倍だが、焼き芋の肉色の官能評価では統計的に意味のある差を検出できなかった
  • いもは平均的に小ぶりで収量は標準比81%。十分な生育期間の確保が推奨されているが、資料がその理由として挙げているのは収量の確保である

数値はいずれも測定条件とセットで意味を持ちます。条件を添えて読むことで、ふくむらさきの味をより正確に捉えられるはずです。収穫期や入手先などの基本情報は、冒頭でご紹介した品種解説の記事にまとめていますので、あわせてご覧ください。

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