はじめに
種子島の芋焼酎を扱う売り場で、原料の芋の名前として「種子島ロマン」という表記を見かけることがあります。安納いもや種子島ゴールドと並べて書かれていることも多く、これがどんな芋なのか、すぐには分かりにくいところです。
調べてみると、今度は「種子島ろまん」というひらがなの表記も出てきます。同じものなのか別のものなのか、ここでもう一度つまずいてしまうかもしれません。
種子島ろまんは、種子島に伝わる紫肉のさつまいもから選抜され、1999年に品種登録された品種です。兄弟にあたる種子島ゴールドとは、皮の色や形状、収量の性質に違いがあります。
本記事では、種子島ろまんとはどんな品種なのか、種子島ゴールドとどう見分けるのかを、育成試験の記録などの一次情報をもとにわかりやすくご説明したいと思います。
種子島ろまん(種子島ロマン)とは?
種子島ろまんとは、種子島の在来の紫芋(むらさきいも)から選抜され、1999年に品種登録された品種です。皮も果肉も紫色をしているのが、見た目の大きな特徴です。ここではまず、育成試験の記録に残されている特徴と、品種としての基本情報を順に確認していきます。
皮も果肉も紫のさつまいも
種子島ろまんの外見でまず目を引くのは、皮の色です。
育成の経緯をまとめた鹿児島県農業試験場研究報告 第31号(2003年)によると、種子島ろまんのいもは円筒形で、皮の色は「紫」と記載されています。一個あたりが大きくなりやすい個重型(こじゅうがた)で、もとになった在来の種子島紫より多収とされています。蒸したときの肉色は濃い紫と報告されています。
果肉が紫色になるのは、アントシアニンという色素を含むためです。アントシアニンはポリフェノール(フラボノイド)の一種で、水に溶ける天然の色素です。ブルーベリーやなすなどにも含まれますが、紫芋の場合は皮だけでなく果肉にも含まれるため、切ると断面まで紫色になります。
植物としては、ごく一般的なさつまいもと同じヒルガオ科サツマイモ属に分類されます。紫芋全般の基礎知識や、紫芋が紫色になる仕組みもあわせてご覧いただくと、位置づけがより分かりやすくなります。
品種登録の基本情報
次に、品種としての位置づけを確認します。
種子島ろまんを育成したのは、鹿児島県農業試験場熊毛支場(現在の鹿児島県農業開発総合センター熊毛支場)です。島内で栽培されていた在来のさつまいもを収集し、そこから形状や収量性のそろったものを選び抜いて固定した品種にあたります。
項目 内容
品種登録番号 第7085号
登録年月日 1999年3月17日
育成 鹿児島県農業試験場熊毛支場
由来 在来の「種子島紫」からの選抜
育成者権 2007年3月20日に消滅
育成者権はすでに消滅しており、現在は農林水産省のいう「一般品種」(在来種・品種登録されたことがない品種・品種登録期間が切れた品種)にあたります。登録当時の存続期間は20年とされていましたが、実際にはそれより前に権利が失われており、理由までは公表情報からは分かりません。
在来の種子島紫がどのような存在で、そこからどう選抜が進められたのかについては、在来系統としての種子島紫と選抜の経緯でくわしく扱っています。
「ろまん」と「ロマン」—名前と表記を整理する
種子島ろまんをめぐる分かりにくさの多くは、名前の表記に由来します。ひらがなの「種子島ろまん」とカタカナの「種子島ロマン」が、どちらも使われているためです。ここで、どちらが正式な名称で、それぞれがどんな場面で使われるのかを整理しておきましょう。
正式名称はひらがな
結論から申し上げると、品種登録された正式な名称は、ひらがなの「種子島ろまん」です。
品種名は固有名詞ですので、資料や記事では正式名称を使うのが正確です。カタカナの「種子島ロマン」は、同じ品種を指す慣用的な表記と考えていただいて差し支えありません。
正式名称と流通での表記が食い違う例は、さつまいもでは珍しくありません。たとえば黄肉の代表品種であるべにはるかも、農研機構の正式登録名はひらがなですが、産地のブランド名では「かのや紅はるか」のように漢字が使われます。
同じ芋が、場面によって少し違う顔つきの名前で呼ばれている、と捉えておくと混乱しにくくなります。
焼酎の原料芋名としてのカタカナ表記
カタカナの「種子島ロマン」がよく使われるのは、芋焼酎の売り場です。
焼酎の専門店では、原料に使われたさつまいもの品種ごとに商品を分類していることがあります。その一覧のなかに「種子島ロマン」がカタカナで置かれ、「種子島紫・種子島ゴールド」とは別の枠として扱われている例も見られます。
ここで、よくある誤解にも触れておきます。紫芋を原料にしても、できあがった焼酎そのものは基本的に無色透明です。アントシアニンは不揮発性のため蒸留のときに留出液へ移らず、紫の芋を使う意味は色ではなく、香りや味わいの側にあると説明されています。同じように加工用に育てられた紫芋もあり、用途に応じた品種の使い分けがなされています。
なお、20歳未満の飲酒は法律で禁止されています。
種子島ゴールドとの違い・見分け方
種子島ろまんと種子島ゴールドは、同じ在来の種子島紫から同じ日に品種登録された、いわば兄弟にあたる品種です。よく似た経緯をもちながら、外見は大きく異なります。名前の響きからは想像しにくい違いですので、売り場で実際に見分けるための手がかりを順に整理します。
皮の色で見分ける
見分けるうえで最も分かりやすいのは、皮の色です。
種子島ゴールドは、皮が白っぽい淡黄色で、果肉が濃い紫色をしています。外から見ただけでは中身の色を想像しにくい、対比のはっきりした外観です。一方の種子島ろまんは、皮も紫、果肉も紫という組み合わせになります。
項目 種子島ろまん 種子島ゴールド
品種登録番号 第7085号 第7086号
登録年月日 1999年3月17日 1999年3月17日
皮の色 紫 白っぽい淡黄色
果肉の色 紫(蒸すと濃紫) 濃い紫
権利の状況 2007年3月20日に消滅(一般品種) 2016年3月18日に消滅(一般品種)
※育成試験の肉色は蒸しいもの状態で評価されています。生のいもと加熱後では、色の見え方が異なります。
売り場では、次のように考えると整理しやすくなります。
・皮が白っぽく、切ると中が濃い紫 → 種子島ゴールドの可能性
・皮が紫で、中も紫 → 種子島ろまんの可能性
ただし、皮の色は栽培条件や貯蔵期間によっても見え方が変わります。白い皮をもつ兄弟品種とあわせて、表示や産地の情報からご判断ください。
売り場では両方が「種子島紫」と表示されることがある
もうひとつ、見分けを難しくしている事情があります。
「種子島紫」という呼び名は、もともと種子島に伝わる紫肉の在来系統を指す言葉です。ところが店頭や通販では、そこから選抜された種子島ゴールドが「種子島紫」の名前で売られることがある、と紹介されています。
つまり「種子島紫」という表示は、在来系統そのものを指す場合と、選抜品種を指す場合の両方がありえます。品種名を確かめたいときは、表示だけでなく、販売者や産地の情報を確認していただくのが確実です。
味・食感—育成試験では「粉質・食味中」
種子島ろまんの味や食感は、育成試験の記録では「粉質・食味中」と評価されています。一方、流通の紹介文には、これとは異なる説明もみられます。ここでは、評価の出所と、その重みの違いを整理してお伝えします。
育成試験の評価と「中」の意味
まず、一次情報にあたる育成試験の記録から確認します。
前掲の鹿児島県農業試験場研究報告 第31号(2003年)では、種子島ろまんの蒸しいもの肉質は「粉質」、食味は「中」と報告されています。粉質は、加熱するとほろほろとほぐれる、いわゆるホクホク系の肉質を指します。
ここで補足が必要なのが「中」という表記です。これは品種の特性を評価する尺度の上での区分であり、おいしくないという意味ではありません。実際、青果用の紫芋としてよく知られるパープルスイートロードも、同じ「中」に区分されています。
育成試験は、同じ条件で複数の品種を並べて比較するためのものです。日常の食卓での印象とは、ものさしそのものが違うとお考えください。
流通の紹介文は「やや粘質・食味良好」
一方、流通の場では違う説明を見かけます。
種子島ろまんは皮が赤紫色で、やや粘質の肉質で食味がよい、と紹介されることがあります。これらはいずれも野菜図鑑や販売の紹介文にみられる記述で、育成試験の記録とは出所が異なります。
ただし、これらの記述には評価の条件が示されていないため、育成試験の記録と同じ重みで扱うことはできません。本記事では、育成試験の「粉質・食味中」を品種の特性として扱い、流通の紹介文は参考情報として位置づけます。
なお、さつまいもの肉質は一般に栽培条件や貯蔵期間によって変わることが知られていますが、種子島ろまんについて記述差の原因を検証した資料は見当たりません。紫芋の品種を色・甘さ・用途で比較した記事もあわせてご覧いただくと、位置づけが見えやすくなります。
出回り方と、加工用としての立ち位置
種子島ろまんは、一般の流通では見かけにくい品種です。どのくらい作られていて、どんな用途が想定されているのかを、公表されている範囲で確認しておきます。手に入れてみたいとお考えの方は、この節を目安にしていただければと思います。
青果としての流通は限られる
種子島ろまんの流通は、限られた範囲にとどまるとみられます。
農林水産省がまとめる「かんしょ品種の普及状況」の品種別作付面積(令和5年産・概算値)に、種子島ろまんは個別の項目として掲載されていません。ただしこの表には「その他」とは別に「不明」の区分もあるため、この資料だけでは実際の作付面積を特定することはできません。産地の情報発信では、在来の種子島紫にくらべて栽培は多くないと紹介されています。
確実に言えるのは、一般の流通では見かけにくい品種だということです。どこで扱われているかは公表資料からは分からないため、本記事では入手先については触れません。
焼酎・菓子の加工原料として
用途の面では、青果用と加工用の両方が想定されている品種です。
ただし、焼酎に特に向く、菓子に特に向くといった個別の用途ごとの優位性までは、公表資料から確認できません。焼酎や菓子への使用例が紹介されることはありますが、それを裏づける試験データは見当たらない、というのが現状です。
紫芋を加工に使う場合、菓子では果肉の紫色がそのまま活きますが、焼酎では前述のとおり色は残りません。同じ「加工用」でも、色が意味をもつかどうかは製品によって異なる、という点は覚えておくとよいかもしれません。
よくある質問
最後に、種子島ろまんについて検索でよく見かける疑問を4つ取り上げます。名前の表記や、家庭で育てられるかどうかなど、本文で扱いきれなかった細かい点を補足します。
Q1. 「種子島ロマン」と「種子島ろまん」は同じものですか?
同じ品種を指しています。品種登録された正式な名称はひらがなの「種子島ろまん」で、カタカナの「種子島ロマン」は主に芋焼酎の売り場などで使われる表記です。どちらで検索しても、同じ品種の情報にたどり着けます。
Q2. 種子島紫とは何が違いますか?
種子島紫は、種子島に伝わる紫肉のさつまいもの在来品種・在来系統に使われる名称で、単一の品種を指す言葉ではありません。種子島ろまんは、そこから選抜されて品種登録された品種のひとつです。
Q3. 家庭菜園で育てられますか?
種子島ろまんは育成者権が消滅した一般品種にあたるため、育成者権にもとづく増殖・利用の制限はありません。ただし、一般品種であれば種苗法上の義務がまったくないというわけではなく、過去に登録された品種名称は、種苗を業として譲渡・販売する際に使用する義務が残ります(農林水産省「品種登録制度と育成者権」)。なお、苗の入手しやすさは品種によって差があります。
Q4. 焼酎の色は紫になりますか?
なりません。アントシアニンは不揮発性のため、蒸留のときに留出液へ移らないためです。紫芋を原料にしても、焼酎そのものは基本的に無色透明です。20歳未満の飲酒は法律で禁止されています。
まとめ
種子島ろまんについて、ここまでの内容を整理します。兄弟品種との見分け方と、名前の表記の2点を押さえておけば、売り場で迷うことは少なくなるはずです。
種子島ろまんは、種子島の在来の紫芋から選抜され、1999年3月17日に品種登録された品種(第7085号)です。育成者権は2007年3月20日に消滅し、現在は一般品種にあたります
兄弟品種の種子島ゴールドとは、皮の色で見分けられます。ゴールドは白っぽい淡黄色、ろまんは紫です
正式名称はひらがなの「種子島ろまん」で、カタカナの「種子島ロマン」は主に芋焼酎の売り場で使われる表記です。指しているものは同じです
食感については、育成試験の記録では「粉質・食味中」と評価されています。流通の紹介文には別の説明もありますが、評価の条件が示されていないため、まずは育成試験の記録を目安にしていただくのがよさそうです。
参考資料
上妻道紀ほか「カンショの品種'安納紅','安納こがね','種子島ろまん','種子島ゴールド'の育成」鹿児島県農業試験場研究報告 第31号(2003年)
農林水産省 品種登録データベース
農林水産省「かんしょ品種の普及状況」(品種別作付面積・令和5年産概算値)
農林水産省「品種登録制度と育成者権」
ふくむらさきどっとこむ
