紫芋(むらさきいも)の品種を調べていると、「アケムラサキ」という名前に行き当たることがあります。ただ、この名前を青果売り場で見かけた方は、ほとんどいないのではないでしょうか。

それもそのはずで、アケムラサキは青果用ではなく、色素や加工の原料として育てられた品種だからです。

本記事では、アケムラサキとはどんなさつまいもなのか、母品種にあたるアヤムラサキとの違いや用途、入手方法まで、農研機構などの一次情報をもとにわかりやすくご説明したいと思います。

アケムラサキとは

アケムラサキは、農研機構が育成した、アントシアニン(紫色のもとになるポリフェノールの一種)色素の原料用のさつまいも(紫芋)です。「かんしょ農林62号」として命名登録されたのち、種苗法に基づく品種登録も受けています。まずは品種としての基本データと、少し変わった名前の由来から見ていきます。

品種の基本データ

アケムラサキは、農研機構 九州沖縄農業研究センターが育成した紫芋です。育成の途中では「九州148号」という系統名で試験されていました。

  • 項目 内容
  • 品種名 アケムラサキ
  • 系統名(旧) 九州148号
  • 農林番号 かんしょ農林62号(2005年/平成17年に命名登録)
  • 育成機関 農研機構 九州沖縄農業研究センター
  • 交配組み合わせ 「アヤムラサキ」(母)×「九系174」(父)/1996年(平成8年)交配
  • 出願番号 18655(2005年8月11日出願・2006年3月7日公表)
  • 品種登録番号 第19253号(2010年3月11日登録)
  • 主な用途 色素原料用(加工用)

ここで注意したいのが、「出願番号18655」と「品種登録番号第19253号」はまったく別の番号だという点です。また、農林番号としての命名登録(2005年)と、種苗法に基づく品種登録(2010年)も別の手続きにあたります。「アケムラサキは平成17年に登録された品種」という説明を見かけますが、これは命名登録を指しており、品種登録はその5年後です。

名前の由来は「暁紫」

品種名の「アケ」は、夜明けを意味する「暁(あかつき)」から来ています。農研機構のプレスリリースによれば、この名前には新しい色素用品種の時代の幕開けという意味が込められており、漢字では「暁紫」と表されます。紫芋の色素利用がこれから広がっていく、という当時の期待が名前に残されているわけです。

紫芋の品種には、名前に育成のねらいが込められているものが少なくありません。加工用のムラサキマサリが「紫優」と表されるのも同じ流れです。紫芋そのものについては、紫芋の基礎知識をまとめた記事もあわせてご覧ください。

アケムラサキの特徴

アケムラサキは色素をとるために育てられた品種のため、食用品種とは評価の物差しが違います。見た目・味・栽培のしやすさという3つの角度から、特徴を整理します。数値はいずれも農研機構と農林水産省の資料によるものです。

見た目と色の濃さ

アケムラサキのいもは、皮が濃い赤紫色、中身(肉色)は紫色をしています。形は長紡錘形(ちょうぼうすいけい=細長い紡錘のような形)です。

外観の良さは、この品種の大きな特徴のひとつです。いもの曲がりやくびれがほとんどなく、母品種のアヤムラサキより外観が優れるとされています。

農研機構は、いもの形状が乱れると掘取り時の折損による傷みや加工時の洗浄が難しくなると説明しています。形が整っていることには、原料としての実務的な意味があるわけです。

紫色のもとになっているアントシアニンは、水に溶ける天然の色素です。その量の指標を「色価(しきか)」と呼びます。色が生まれる仕組みは、紫芋が紫色になる仕組みの記事でご紹介しています。

味と食感

アケムラサキは、焼きいもや蒸しいもとして楽しむ品種ではありません。

農林水産省の「かんしょ品種の普及状況」に掲載された主要品種の特性表では、アケムラサキの食味は「下」、肉質は「中」と評価されています。種苗の販売店でも、甘みが乏しいため焼きいもには向かないと説明され、菓子などの着色用として案内されています。

興味深いのは、育成報告にある蒸しいものBrix値(甘さの目安)です。アケムラサキは5.0%で、アヤムラサキの4.7%を上回りますが、食味の評価は同じ「下」でした(2001〜2004年・標準無マルチ栽培)。Brix値は糖以外の成分の影響も受けるため、数値が高いほどおいしいとは限りません。

同じ紫芋でも、しっとりとした食感と高い糖度をもつふくむらさきのような青果用品種とは、育成の目的そのものが異なります。「紫芋は甘くない」と一律に考えられがちですが、実際には品種ごとの差がとても大きい点に注意が必要です。

栽培上の特性

栽培面では、病害虫への強さに特徴があります。

サツマイモネコブセンチュウへの抵抗性は「強」で、これはアヤムラサキより優れています。ミナミネグサレセンチュウにも「強」の抵抗性を示します。

一方で、病害には弱い面があります。黒斑病(こくはんびょう)は「中~弱」、立枯病(たちがれびょう)は「弱」と判定されており、育成報告では、これらの病害が多発する地帯では無病いもや健全苗の使用、土壌消毒、土壌pHの調整といった防除対策が必要だとされています。

貯蔵性は「やや易」で、アヤムラサキよりわずかに劣ります。育成報告は、収穫作業時の傷みと貯蔵温度(12〜15℃)に留意するよう促しています。上いも重はアヤムラサキ並で、でん粉原料用の代表品種であるコガネセンガンよりは低いと報告されています。

アヤムラサキ・ムラサキマサリとの違い

色素用の紫芋には、アヤムラサキ、ムラサキマサリ、そしてアケムラサキという流れがあります。アケムラサキはアヤムラサキを母として生まれた、いわば改良版にあたる品種です。何がどう改良されたのかを見ていきます。

アントシアニン色価の比較

アケムラサキの最大のねらいは、色素含量の向上でした。

農研機構によれば、アントシアニン色素含量(色価)は、いずれの栽培条件でもアヤムラサキより高いとされています。「いずれの栽培条件でも」という但し書きが付いている点が重要で、色価は栽培条件によって変動しうるため、条件を揃えた比較でなければ意味をもちません。

母品種アヤムラサキだけでなく、ムラサキマサリを含めた比較も、農研機構の育成報告(2010年)で公表されています。育成地の試験では、標準的な栽培での色価がアケムラサキ7.9、アヤムラサキ6.7、ムラサキマサリ6.4でした。マルチを長期間かけた栽培では、それぞれ9.9、6.5、6.2となっています(いずれも10%E・2001〜2004年)。

さらに、面積あたりで取れる色素の量(色素収量)も両品種を上回りました。育成報告は、栽培条件によってアヤムラサキ比で18〜66%、ムラサキマサリ比で26〜37%高かったとしています。色素原料としては、単位面積からどれだけ色素が取れるかが実務上の指標になります。

改良されたのは色だけではない

アケムラサキが育成された背景には、アヤムラサキが抱えていた実務上の課題がありました。

アヤムラサキのいもは長くなりやすく、くびれや曲がりがあり、色素含量にばらつきが出るという問題が指摘されていました。色素は多くても、原料としては扱いにくかったわけです。

アケムラサキでは、この外観の乱れが改善され、線虫への抵抗性も高められました。色価の高さだけでなく、栽培と加工の現場での使いやすさをまとめて引き上げた品種という位置づけになります。

なお農研機構は2015年度に、アケムラサキより色価が高く、色素の光や熱に対する安定性にも優れる新品種候補系統「九州180号」を報告しています。色素用品種の改良は、アケムラサキで終わったわけではありません。

加工したときの色と安定性

色素が多ければそのまま置き換えられる、という単純な話ではありません。

育成報告によると、アケムラサキのパウダーやペーストは、アヤムラサキより明度が低く、やや黒みがかった紫色を呈します。これは、紫芋のアントシアニンを構成するシアニジン型色素とペオニジン型色素のうち、アケムラサキはシアニジン型の比率が高いためだと説明されています。色の濃さだけでなく、色みそのものが変わるわけです。

安定性については条件別の実測データがあります。加熱後の色素残存率で見た耐熱性はアヤムラサキとほぼ同等で、pH4.0〜5.0付近ではアケムラサキのほうが色調の変化が小さい結果でした。光に対しては、中性域(pH7.0)では同等、酸性域(pH3.0)ではアケムラサキが優れていました。

こうした差があるため、育成報告は、加工利用にあたっては用途に応じて色素の特性やペーストの色調を事前に十分検討することが望ましい、としています。

3品種の比較

色素用の紫芋3品種を、公表されている情報で並べると次のようになります。

項目アケムラサキアヤムラサキムラサキマサリ
品種登録番号第19253号第7497号第12276号
品種登録年2010年1999年2004年
種苗法上の扱い登録品種一般品種(育成者権満了)一般品種(育成者権満了)
主な用途色素原料用色素抽出・加工用色素・加工用、焼酎原料
食味の評価良くない劣る

食味の評価は農林水産省の特性表などによるもので、3品種とも生食向きではありません。

種苗法上の扱いが分かれる点は、栽培を考える方にとって実務的な違いになります。

青果用を含めた品種の全体像は、加工用を含む紫芋の品種一覧でご確認いただけます。

アケムラサキは何に使われている?

食べるためでないなら、どこで使われているのでしょうか。主な用途は天然色素の原料ですが、焼酎の原料になった事例もあります。

天然色素の原料として

紫芋から抽出されたアントシアニン色素は、天然着色料として飲料や漬物、菓子類などに利用されています。

日本いも類研究会によれば、さつまいもの色素は紫キャベツなどに比べて色調が明るく、光に対する安定性に優れるとされています。この扱いやすさが、紫芋の色素が使われ続けてきた理由のひとつです。

市場の規模について、農研機構は2005年の発表時点で、アヤムラサキ由来の色素が年間160トン程度、およそ9億円の市場として利用されていると説明していました。20年ほど前の数値のため現状とは異なる可能性がありますが、アケムラサキはこの用途の担い手を引き継ぐ品種として育成されました。

もっとも、色素原料用は加工食品用のさつまいも全体から見れば小さな区分です。育成報告によれば、2006年度の加工食品用サツマイモ87,836トンのうち色素原料用は2.5%でしたが、2004年からの2年間で生産量が75%増加した、伸びつつある分野でもありました。

焼酎の原料として

紫芋は芋焼酎の原料にもなります。アケムラサキについても、福島県での取り組みが公表されています。

JA福島さくらとJA全農が、震災後の地域生産振興としてアケムラサキの栽培に2013年度(平成25年度)から取り組み、その芋を原料にした本格芋焼酎が2017年1月に数量限定で発売されました。希少な品種のため苗の確保が難しいなど、栽培から商品化まで課題が多かったと説明されています。

ここでひとつ補足しておくと、紫芋を原料にしても、焼酎そのものが紫色になるわけではありません。アントシアニンは蒸留の工程で留液(りゅうえき=蒸留された液体)に移らないため、できあがる焼酎は基本的に無色透明です。仕込み中のもろみが赤く色づくことはありますが、それと製品の色は別の話になります。

なお、20歳未満の飲酒は法律で禁止されています。民法上の成年年齢は18歳ですが、飲酒が認められるのは20歳以上です。

産地と入手方法

「どこで作られていて、手に入るのか」も気になるところだと思います。結論からいえば、青果用として広く流通する品種ではありませんが、苗は入手できます。

主な産地

農研機構は2005年の発表時点で、宮崎県での色素原料用としての普及(30ヘクタール程度の見込み)を示していました。農林水産省の令和5年産(2023年産)の資料でも、アケムラサキの主要作付地域は宮崎県とされています。

ただし、同じ資料の品種別作付面積の一覧に、アケムラサキは個別に掲載されていません。アヤムラサキ(59.5ヘクタール)やムラサキマサリ(222ヘクタール)は記載されていますが、アケムラサキの現在の作付規模を、この資料から確認することはできません。

育成時に見込まれていた普及面積は30ヘクタール程度(2010年の育成報告)でしたが、これは当時の見通しであり、現況を示すものではありません。用途は色素・加工原料用であり、青果用として広く流通する品種ではありません。

苗の入手と種苗法上の注意

アケムラサキの切り苗は、さつまいも苗を扱う種苗店で販売されています。ただし、アケムラサキは現在も育成者権が存続している登録品種である点に注意が必要です。

品種登録日は2010年3月11日です。2026年(令和8年)7月24日に施行された種苗法の改正により、同日時点で育成者権が存続していた登録品種は、存続期間が品種登録の日から35年となりました。アケムラサキもこれに該当し、2045年3月11日まで育成者権が存続することになります。

なお、官報告示や品種情報のページには、改正前の「25年」という記載が残っている場合があります。農林水産省は、告示上25年または30年の品種でも、令和8年7月24日に育成者権が存続していたものは延長の対象になると説明しています。

登録品種を扱ううえでの線引きは、次のとおりです。

  • 販売も譲渡もしない自家消費目的の家庭菜園・趣味の栽培は、種苗法の制限の対象外です
  • 自己の農業経営で自家用に増殖する場合(収穫したいもや苗からつる苗を採って植え直すなど)は、育成者権者である農研機構の許諾が必要です。カンショの登録品種では許諾料は無償ですが、原則として手続きが必要とされています
  • 正当に入手した種苗そのものからの自家用増殖は、入手後1年間に限り手続きが不要とされています
  • 増殖した種苗を他者へ譲渡することは、有償・無償を問わず別途の許諾が必要です
  • 一方で、適法に購入した苗から育てた収穫物(いも)の譲渡・販売には、育成者権は及びません
  • ただし、収穫したいもを種いもとして使う場合は、収穫物の利用ではなく種苗の増殖にあたります。農林水産省は、食用として購入したいもであっても、個人的・家庭的な利用とはいえない態様で許諾なく種いもとして用いれば、育成者権の侵害となり得ると説明しています

許諾の運用方針は変更されることがあります。栽培を検討される場合は、農研機構「品種の利用許諾について」で最新の手続きをご確認ください。

よくある質問

アケムラサキについて寄せられやすい疑問を、要点だけ整理しておきます。

Q1. アケムラサキは焼きいもにして食べられますか?

食べられないわけではありませんが、公的な特性表でも食味は「下」と評価されており、焼きいも向きではありません。焼きいもで紫芋を楽しみたい場合は、ふくむらさきなどの青果用品種のほうが向いています。

Q2. アヤムラサキとどちらが色が濃いですか?

育成報告では、いずれの栽培条件でもアケムラサキのほうが色価が高いとされています。ただし加工後の色調はアヤムラサキと異なり、やや黒みがかった紫になります。

Q3. スーパーで買えますか?

青果用ではなく、色素や加工の原料として契約栽培される品種のため、一般の店頭では見かけにくいと考えられます。

Q4. 家庭菜園で育てられますか?

苗は種苗店で販売されています。販売も譲渡もしない自家消費目的の栽培であれば、種苗法の制限の対象外です。ただし、収穫したいもから苗を採って増やす場合は扱いが変わります。

まとめ

アケムラサキは、食卓で出会うことの少ない紫芋です。最後に要点を振り返ります。

アケムラサキは、農研機構が育成したアントシアニン色素の原料用品種です。かんしょ農林62号として2005年に命名登録され、2010年3月11日に品種登録第19253号として登録されました(出願番号18655とは別の番号です)。母品種アヤムラサキの課題だった外観の乱れや線虫抵抗性を改善しつつ、色価を高めた点が特徴で、食味は「下」と評価されています。

名前に込められた「暁紫」という意味のとおり、紫芋の色を支える裏方として育てられた品種といえます。紫色のお菓子や飲料に出会ったとき、その背景にこうした品種があることを思い出していただければ幸いです。

参考資料(一次情報源)

本記事の作成にあたって参照した一次情報源は次のとおりです。より詳しい特性値や試験成績は、各資料でご確認いただけます。

農研機構 品種詳細「アケムラサキ」
農研機構 プレスリリース「加工用品種『アケムラサキ』(かんしょ農林62号)の育成」(2005年)
農林水産省「かんしょ品種の普及状況」(令和5年産)
農林水産省 品種登録ホームページ
農林水産省「種苗法の改正について」
境哲文ほか(2010)「サツマイモ新品種『アケムラサキ』の育成」九州沖縄農業研究センター報告 第53号
農研機構 成果情報「色素用の高アントシアニンカンショ新品種候補系統『九州180号』」(2015年度)
農林水産省「種苗法に関する一般的なご質問」
日本いも類研究会「アケムラサキ(農林62号)」
JA全農 プレスリリース「全農ブランド『むらさきの想い』を新発売」(2017年)

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