店頭の焼き芋コーナーや苗の売り場で、「ふくむらさき」という名前を見かけることがあります。紫色のさつまいもでありながら甘いと紹介されることが多い品種ですが、誰がいつ作り、どこで育てられているのかまでは、あまり知られていません。
本記事では、ふくむらさきがどのような品種なのかを、農研機構や農林水産省などの一次資料をもとに、わかりやすくご説明したいと思います。味・育て方・食べ方については専門の記事がありますので、各章の中でご案内します。品種の来歴や産地、2つの番号の意味まで、この1本で確かめられるようにまとめました。
ふくむらさきとは?品種の基本データ
ふくむらさきは、農研機構が育成し、2021年に品種登録された紫肉(果肉が紫色)のさつまいもです。蒸しいもや焼きいもにしたときの糖度が高く、しっとりとした肉質が特徴です。まずは、品種としての基本情報を一覧で確認しておきましょう。
基本データ一覧
ふくむらさきの基本情報を、出典とあわせて表にまとめました。番号や日付は、資料によって取り違えが起きやすい部分です。
| 項目 | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 作物 | さつまいも(学名 Ipomoea batatas) | 米国特許 PP32832 |
| 育成機関 | 農研機構 九州沖縄農業研究センター | 農研機構 |
| 交配の組み合わせ | 母「九系255」×父「パープルスイートロード」 | 農研機構 プレスリリース |
| 旧系統名 | 九州165号 | 農研機構 品種詳細 |
| 出願番号(出願日) | 33033(2018年4月16日) | 農研機構 品種詳細 |
| 登録番号(登録日) | 第28530号(2021年7月9日) | 農研機構 品種詳細 |
| 育成者権の存続期間の満了日 | 2056年7月9日 | 農林水産省(登録日から計算) |
| いもの形・皮色・肉色 | 長紡すい形・赤紫・紫 | 育成者による解説(JATAFF) |
| 主な用途 | 青果用(「焼き芋に向く」とされる) | 茨城県・農林水産省 |
| 主要作付地域 | 茨城県 | 農林水産省 主要品種の特性表 |
「九州165号」は、品種登録の前に試験で使われていた系統名です。正式な品種名は「ふくむらさき」です。品種の公式情報は、農研機構の品種詳細ページで確認できます。
名前の由来と両親
農研機構のプレスリリースによると、名前には「その美味しさで食べた人を幸福な気持ちにすることができる紫サツマイモ」という意味が込められています。
母にあたる「九系255」は、食味が優れる黄肉色の系統です。父の「パープルスイートロード」は、同じ農研機構が育成した紫肉の品種です。食味の優れる黄肉の系統と、紫肉の品種をかけ合わせた組み合わせです。父の品種については、パープルスイートロードの特徴を解説した記事でご紹介しています。
ふくむらさきの特徴|親のパープルスイートロードと比べてわかること
ふくむらさきの特徴は、父のパープルスイートロードと並べると見えやすくなります。ここでは、育成地で行われた同じ試験の数値を中心に、色・甘さ・肉質・いもの大きさを比べます。味の細かな評価や、栽培への影響は専門の記事にゆずります。
数値で比べる
次の表は、育成地(九州沖縄農業研究センター)の2009〜2011年と2013〜2017年の試験年度の値です。
| 項目 | ふくむらさき | パープルスイートロード |
|---|---|---|
| 上いも収量(kg/a) | 201 | 298 |
| 上いも1個重(g) | 127 | 194 |
| 株当たりの上いも数 | 4.2 | 4.2 |
| アントシアニン色価 | 3.6 | 2.5 |
| 蒸しいもの肉質 | 中 | やや粉質 |
| 蒸しいもの糖度(Brix%) | 21.6 | 13.1 |
出典:色価は甲斐由美「焼きいもに向く,甘みの強い紫サツマイモ新品種『ふくむらさき』」表1(JATAFF)、それ以外は農研機構 研究成果情報「高糖度で食味が優れる、紫肉カンショ新品種候補系統『九州165号』」表1
「上いも」は、重さ50g以上のいもを指します(農研機構 プレスリリース表1の注記)。同じ試験の標準品種「高系14号」は、上いも収量249kg/a・1個重192gでした。蒸しいもの肉質と糖度は収穫から約2週間後に調べたもので、Brixは換算値とされています。糖度(Brix値)は甘さの目安で、栽培や貯蔵、加熱の条件によって変わります。
アントシアニン色価は、色素の量の目安となる数値です。測定の方法によって値が変わるため、別の資料の数値とそのまま比べることはできません。
甘く色が濃い一方で、いもは小ぶり
表からは、ふくむらさきの性格がはっきり読み取れます。色価はパープルスイートロードの約1.4倍で、蒸しいもの糖度も高くなっています。色価の比は同じ試験の中での値で、栽培条件や測定方法によって変わります。茨城県の成果情報でも、色価はパープルスイートロードの約1.4倍とされています。
一方で、上いも1個重はパープルスイートロードの3分の2ほどです。株当たりのいもの数は同じなので、収量が少ないのは「数が少ない」からではなく、「1個が軽い」ためと読めます。
プレスリリースも「いもが小さめで収量が標準品種より少ないので、早掘りを避け、十分な生育期間を確保する必要があります」としています。この注意は、いもの肥大と収量を確保するためのものです。株間や在圃日数など、この性格に合わせた栽培の工夫は、ふくむらさきの育て方で詳しくご説明しています。
味と食感の要点
農研機構は、蒸しいもや焼きいもの糖度が「べにはるか」並に高く、肉質は中〜やや粘質で、しっとりとした食感だとしています。べにはるかは黄肉の品種で、甘さを比べるときの基準としてよく使われます。
表の糖度は、蒸しいもの値です。焼きいもにしたときの試験データや、官能評価(人が食べて評価する試験)の読み方は、ふくむらさきの味と甘さの根拠を解説した記事で詳しくご説明しています。
紫色と食べ方の要点
果肉の紫色は、アントシアニンという天然色素によるものです。ふくむらさきは、この色素の量の目安となる色価がパープルスイートロードを上回ります(農研機構)。色素の性質や紫色になる仕組みは、紫芋が紫色になる理由の記事をご覧ください。
農林水産省の資料では「焼き芋に向く」品種と紹介されています。紫色がきれいに残る調理の工夫は、甘さと紫色を活かす食べ方のコツにまとめています。
ふくむらさきが品種になるまで|2004年の交配から2021年の登録まで
ふくむらさきは、交配から品種登録まで17年かかっています。途中には、配付先の多くの県で総合的な評価が低かった時期もありました。ここでは、育成者の解説と公的な記録をもとに、その歩みを年表でたどります。
年表
主な出来事を、出典とあわせて並べました。
| 年月日 | 出来事 | 出典 |
|---|---|---|
| 2004年 | 九州沖縄農業研究センターで交配・採種 | JATAFF |
| 2005年〜 | 選抜・育成 | JATAFF |
| 2009年 | 「九州165号」の系統名で関係機関に配付 | JATAFF |
| 2015年〜 | 農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業も活用して育成 | JATAFF |
| 2018年4月16日 | 品種登録を出願(出願番号33033) | 農研機構 |
| 2018年8月14日 | 出願公表 | 農研機構 |
| 2018年11月15日 | プレスリリース(2019年春から苗の供給予定) | 農研機構 |
| 2019年4月16日 | 米国に出願 | 米国特許 PP32832 |
| 2021年2月23日 | 米国で植物特許として登録 | 米国特許 PP32832 |
| 2021年7月9日 | 日本で品種登録(第28530号) | 農研機構 |
| 2026年7月24日 | 改正種苗法の一部(存続期間の延長など)が施行され、ふくむらさきの育成者権の存続期間が35年に | 農林水産省 |
多くの県で総合評価が低かった系統を、茨城県が試験し続けた
2009年に配付された「九州165号」は、各地で地域への適応性を試験されました。育成者の解説によると、配付した多くの県で食味の評価は高かったものの、標準品種に比べて収量が少なく、総合的な評価は低かったとされています。
そのなかで茨城県は、良食味の有望な系統として試験を続け、品種化を要望しました。この要望を受けて、2015年からは農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業も活用しながら育成が進められています。
茨城県で行われた焼きいも適性の試験では、食感と甘さがパープルスイートロードより優れ、総合評価も上回ったと報告されています。茨城県農業総合センター農業研究所は、平成30年度の成果情報で「甘味が強く食味に優れる紫いも品種『ふくむらさき』」として、成果と栽培法をまとめています。
海外にも出願し、米国では国内より先に登録
ふくむらさきは、国内だけでなく海外にも品種登録が出願されています。2022年の特集号に掲載された育成者の解説では、中国・ベトナム・米国・韓国の4か国に出願し、解説の時点では米国のみ登録済みとされています。
米国の植物特許(PP32832)は2021年2月23日に発行されました。日本の登録(2021年7月9日)より136日早い日付です。この特許の書類には、優先権の基礎として、日本での品種登録出願(出願番号33033・2018年4月16日)が記載されています。中国・ベトナム・韓国の現在の状況は、確認できていません。
ふくむらさきはどこで作られている?産地と普及の現在地
ふくむらさきの主要作付地域は、農林水産省の資料で茨城県とされています。ここでは、育成時の計画から現在の公的資料までを順に見ていきます。あわせて、統計でわかることとわからないことも整理します。
茨城県を中心に導入された経緯
農研機構の研究成果情報(研究期間2004〜2017年度)は、茨城県で焼きいも用として生産される見込みとし、当面の普及予定面積を50haとしていました。これは当時の計画値であり、実際の作付面積ではありません。
2018年のプレスリリースでは、茨城県など関東を中心とする青果用さつまいもの産地で普及する予定とされています。現在の品種詳細ページは「当面は茨城県を中心に普及する見込みですが、その他の地域でも関心が高まっています」としています(2026年9月確認)。農林水産省の主要品種の特性表でも、主要作付地域は茨城県です。
産地での取り組みの例として、農林水産省の普及事例集に、茨城県行方(なめがた)地域の事例(令和2・3年度)が載っています。背景には「既存品種と同様の栽培方法では収量が低い傾向」があり、栽培法を工夫して既存品種並みの収量を確保できたとまとめています。今後の課題には、生産者と出荷量を増やす取り組みが挙げられています。
作付面積の統計と、旬・入手の目安
農林水産省「かんしょ品種の普及状況」の品種別作付面積の表には、令和5年産(概算値)の時点で、ふくむらさきの個別の項目がありません。この表では、ふくむらさきが独立した項目として掲載されていないため、全国の作付面積を個別に把握することはできません。
収穫は、茨城県の資料で10月下旬以降が勧められています。品種別の出回り時期や販売先をまとめた公的な統計は見当たらず、取り扱いは年や地域によって変わります。
登録番号28530と出願番号33033|育成者権と栽培のルール
ふくむらさきを調べていると、「28530」と「33033」という2つの番号に出会います。どちらも正しい番号ですが、意味が違います。ここでは番号の読み分けと、登録品種として育てるときの線引きを整理します。
28530は登録番号、33033は出願番号
33033は2018年4月16日に出願したときの番号で、第28530号は2021年7月9日に登録されたときの番号です。
出願から登録までの3年あまり、ふくむらさきは出願中の品種でした。農研機構の品種詳細ページには両方の番号が並び、米国特許の書類には出願番号の33033が記載されています。品種登録番号として示すのは第28530号で、「登録番号33033」と書くのは誤りです。
育成者権の存続期間は2056年7月9日まで
2026年7月24日、改正種苗法のうち育成者権の存続期間を延長する規定などが、公布の日から施行されました(改正法の大部分は2026年12月1日の施行です)。同日に育成者権が存続していた登録品種は、存続期間が品種登録の日から35年、法令上の永年性植物は40年になりました(農林水産省 品種登録ホームページ・令和8年度種苗法改正に関するQ&A)。ふくむらさきは2021年7月9日の登録なので、存続期間の満了日は2056年7月9日です。なお、この日付は法律上の期間から計算したもので、権利の維持には登録料の納付が必要なため、それより前に権利が消滅する場合もあります。
なお、農研機構の品種詳細ページは、2026年9月17日時点で「25年(満了日:2046年7月9日)」と表示しています。これは改正前の期間による表示とみられます。父のパープルスイートロードは2004年の登録で、存続期間20年を終えて2024年11月8日に満了しており、現在は一般品種にあたります。
家庭で育てる・人に分けるときの線引き
登録品種といっても、家庭で育てること自体が制限されるわけではありません。ただし、「いも(収穫物)」と「苗や種いも(種苗)」で扱いが分かれます。
- 自家消費の家庭菜園:販売も譲渡もしない、自家消費を目的とした家庭菜園や趣味の栽培は、種苗法の制限の対象外です(農林水産省・農研機構)。
- 正規に購入した苗からとれたいも:食べる、人に譲る、販売することには、育成者権は及びません(農林水産省「種苗法に関する一般的なご質問」)。
- 自分で増やした苗や種いも:有償・無償を問わず、人に譲るには許諾が必要です。増やした苗からとれたいもを人に譲ることや、いもを譲る目的で苗を増やすことにも、許諾が必要です(農研機構・農林水産省)。なお、正規に購入した苗を増やさずにそのまま譲ることは、禁止されていません。
- 農業経営で自家用に増やす場合:育成者権者の許諾が必要です。農研機構のさつまいもの登録品種では許諾は無償ですが、原則として手続きが要ります。正当に入手した種苗そのものから増やす場合は、入手後1年間に限り手続きは不要です(農研機構 許諾手続きのご案内)。
苗の入手先や、産地の栽培法を家庭菜園にどう読み替えるかは、前述の育て方の記事で詳しくご説明しています。
ふくむらさきに関するよくある質問
ふくむらさきについて、検索でよく調べられている疑問にお答えします。詳しい内容は、本文の各章や専門の記事もあわせてご覧ください。
Q1. ふくむらさきは甘いですか?どんな味ですか?
農研機構は、蒸しいもや焼きいもの糖度が「べにはるか」並に高く、しっとりとした食感だとしています。紫芋(むらさきいも)は甘さ控えめという印象を持たれがちですが、育成地の試験では、パープルスイートロードより蒸しいもの糖度が高いとされています。糖度は条件によって変わるため、甘さの目安として捉えてください。
Q2. 植えてから収穫まで何日くらいかかりますか?
産地向けの資料では、挿苗(苗を畑に植えること)から収穫までの在圃日数を、茨城県の成果情報が「150日以上」、農林水産省の普及事例が「160日程度」としており、資料によって幅があります。いもの肥大が遅い品種なので、遅植えや早掘りは避けるよう勧められています(農林水産省)。
Q3. べにはるかとの違いは何ですか?
いちばんの違いは果肉の色で、べにはるかは黄色、ふくむらさきは紫色です。農研機構は、蒸しいもや焼きいもの糖度をべにはるか並としています。べにはるかは黄肉のため、紫芋(むらさきいも)には含まれません。
Q4. ふくむらさきに体によい効能はありますか?
ふくむらさきは、紫色の色素であるアントシアニンを含み、その量の目安となる色価はパープルスイートロードより高いとされています。アントシアニンは抗酸化に関連して研究されている成分ですが、成分を含むことと、食べて特定の効果が得られることは別です。体質や持病に関わることは、医師や管理栄養士にご相談ください。
Q5. 家庭菜園でとれたいもを、人に分けてもいいですか?
正規に購入した苗から育てたいもであれば、人に譲っても育成者権は及びません。ただし、自分で増やした苗や種いもを譲る場合と、その苗から育てたいもを譲る場合は、許諾が必要です。なお、正規に購入した苗を増やさず、そのまま人に譲ることは、種苗法上禁止されていません(農林水産省)。
Q6. ふくむらさきはどこで買えますか?
ふくむらさきの流通量や販売先をまとめた公的な統計は見当たりません。取り扱いは年や地域によって変わるため、収穫が勧められる10月下旬以降に、品種名で探してみるとよいでしょう。
まとめ
最後に、ふくむらさきがどのような品種なのかを振り返ります。目的に合わせて、詳しい記事もご活用ください。
- ふくむらさきは、農研機構が育成し、2021年7月9日に登録された紫肉のさつまいも(登録番号第28530号、出願番号33033)です。
- 父のパープルスイートロードより色価と蒸しいもの糖度が高い一方、いもは小ぶりで収量は少なめです。
- 多くの県で総合評価が低かった系統を、茨城県が試験し続けて品種化を要望し、登録につながりました。
- 主要作付地域は茨城県ですが、農林水産省の品種別作付面積の表からは、全国の作付面積を把握できません。
- 育成者権の存続期間は2056年7月9日までです。自分で増やした苗や、その苗からとれたいもを人に譲るには許諾が必要です。
焼きいもの試験データは味の記事、苗の入手や栽培の工夫は育て方の記事、紫色を活かす調理は食べ方の記事で、それぞれ詳しくご説明しています。ほかの紫芋の品種と比べたい方は紫芋の品種を色・甘さ・用途で比較した記事、紫芋そのものについては紫芋とはどんなさつまいもかを解説した記事をご覧ください。
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