
近年、新たに注目を集めているサツマイモの品種に「ふくむらさき」があります。
ふくむらさきは、その名のとおり果肉が鮮やかな紫色をした紫サツマイモの新品種です。
最大の特徴は紫芋でありながら甘みが非常に強く、しっとりとした食感を持つことです。
農研機構(国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構)によって開発され、蒸し芋や焼き芋にしたときの糖度は人気品種「紅はるか」に匹敵する高さで、粘質寄りのしっとりした食感が特長と報じられています。
この記事では、ふくむらさきとはどのようなサツマイモなのか、その開発の背景や特徴、味わい、栄養面、さらには他品種との比較まで、専門家の視点からやさしく解説します。
開発の背景と品種概要
ふくむらさきは、2018年4月16日に品種登録出願され、2021年7月9日に品種登録(登録番号:28530)となった紫サツマイモ品種です。
農研機構 九州沖縄農業研究センターのサツマイモ育種グループが、食味に優れる黄肉系統「九系255」を母親に、広く普及していた紫芋品種「パープルスイートロード」を父親として交配し、選抜・育成したものです。
開発コードは「九州165号」で、2018年に品種登録出願され、2021年に正式登録されました。
つまり農研機構が長年の育種研究の末に生み出した新品種ということができます。
ふくむらさき誕生の背景には、「もっと甘い紫サツマイモが欲しい」という生産者・消費者からの強い要望がありました。
従来、沖縄県や鹿児島県の島嶼部などでは古くから紫色のサツマイモ(紅芋)が親しまれてきましたが、一般的に紫芋は黄肉の品種に比べ甘みが控えめで食味評価が低い傾向がありました。
2000年代に入って登場した「パープルスイートロード」は多収で栽培しやすい紫芋として普及しましたが、それでも甘さがやや物足りない点が課題に残っていたのです。
こうした背景から、農研機構は紫芋の持つ鮮やかな色と高い栄養価に、黄肉種並みの強い甘さと美味しさを併せ持つ品種の開発に着手しました。
開発過程では、紫芋系統と黄芋系統の交配により有望な実生が得られましたが、収量(とれるイモの大きさ・量)が既存品種より少ないという課題もありました。
しかしそれを補って余りある優れた食味が評価され、茨城県など試験産地の強い要望も後押しして品種化に至った経緯があります。
品種名「ふくむらさき」は、「その美味しさで食べた人を「幸福」な気持ちにできる紫サツマイモ」という意味合いで名付けられました。
まさに食べて幸せになるような美味しいお芋として期待が込められているのです。
色・形など外観の特徴
ふくむらさきの最大の特徴の一つが、その鮮やかな紫色の果肉です。
皮の色自体は一般的なサツマイモと大きく変わらず赤紫色系ですが、中を切ってみると驚くほど濃い紫色をしています。
既存の代表的紫芋「パープルスイートロード」と比べても紫色が濃いことが報告されており、試験資料ではアントシアニン色価(色の濃さ=色素量の指標)が約1.4倍とされています。
アントシアニンとはポリフェノールの一種で、ブルーベリーやブドウにも含まれる天然の紫色素です。抗酸化作用が強く、目の健康維持や老化防止に寄与すると期待される成分でもあります。
ふくむらさきは鮮やかな見た目の美しさだけでなく、こうした機能性成分を豊富に含む点でも注目されています。
形状について見ると、ふくむらさきのイモ(塊根)はやや小ぶりで卵形をしています。
長さに比べて幅が細めで、数はやや多くつくものの、一つ一つの芋は標準的な品種より少し小さめです。
表皮(皮)の主色は紫がかった赤色で、副色はなく単色、芽(ひげ根の付け根)のくぼみは浅い、という特徴が品種登録データベースに記載されています。
外観的には溝や凸凹が少ない綺麗な紡錘形(紡錘=糸巻き型)になりやすく、ゴツゴツした見た目にはなりにくいようです。
皮の色が一般的なサツマイモと近いため、「外見からは紫芋だと分かりにくい」との声もありますが、断面を見れば一目瞭然の鮮やかさです。
甘さ・食感など食味の特徴
ふくむらさき最大の魅力は、その甘さと美味しさにあります。紫芋というと甘みが控えめというイメージを持つ方も多いかもしれません。
しかし、ふくむらさきは焼き芋にすると粘質でしっとりとした肉質になり、強い甘みが感じられる品種です。
糖度(Brix値)は栽培条件や加熱条件で変動しますが、試験例では焼きいもにした場合、ふくむらさき 21.5、パープルスイートロード 18.1と報告されています。
なお、焼きいも・蒸しいもを試料にしたBrix値は糖以外の成分の影響も受けるため、甘さの目安として参照するのが適切です。(※さつまいもの糖度に関しましては『さつまいもの糖度(Brix値)とは?甘さの指標「糖度」の秘密』のページで詳しくご説明していますので、ご参照下さい。)
農研機構の研究でも蒸し芋・焼き芋にした際の糖度は紅はるかと同程度に高いことが確認されており、紫芋とは思えない強い甘さを持つことがわかります。
また、食感はねっとり系寄りのしっとり食感です。
焼き芋にした際、蜜が滴るほどの極端なねっとり系というわけではありませんが、ホクホク系でもなく「ややしっとり」と表現されるバランスの良い食感です。
繊維質が口に残る感じも少なく、十分な甘さと相まってクセのない上品な味わいに仕上がります。
実際の食味官能評価でも、「粘質で甘味が強く、総合評価に優れる」との結果が得られており、開発元によればパープルスイートロードよりも風味・食感ともに優れているとされています。
一方で、従来品種のパープルスイートロードは「肉質はやや粉質」でホクホクした食感が特徴でした。
甘さも紫芋の中では十分あるものの、黄肉種ほどの強い甘さではないため、しっとり系の甘い焼き芋を好む方には物足りない面もあったのです。
ふくむらさきはそうした従来の紫芋の常識を覆し、濃厚な甘さとしっとり食感を両立させた点で画期的と言えます。
実際に焼き芋やスイーツに加工すると紫色が映えるだけでなく、十分な甘さがあるため砂糖などを多く加えなくても美味しく仕上がると評価されています。
「食べた人を幸福にする」甘い味わいは、まさに名前の由来どおりと言えるでしょう。
栽培の特性と旬・流通
栽培面で見ると、ふくむらさきは既存品種に比べてやや収量が少ない傾向があります。
一株あたりにできる芋の数はやや多いものの、一個あたりのサイズが小ぶりで重量が軽いため、全体の収穫量(重量)は一般的な品種より低めになりがちです。
そのため、生産者の立場では早掘り(通常より早い時期の収穫)を避け、十分に生育期間を確保して芋を太らせることが推奨されています。
目安として畑に植えてから150日以上、生育させて10月下旬以降に収穫するのが望ましいとされています。
晩生(おそめ)の品種とまではいきませんが、夏に植え付けた場合は秋も深まる頃までしっかり育てることで甘さも乗り、大きさも十分になります。
病害虫抵抗性については、サツマイモネコブセンチュウ(根にこぶを作る線虫)に対する抵抗性が「中」、ミナミネグサレセンチュウに対しては「やや強」と報告されています。
極端に病虫害に弱いということはなく、適切に管理すれば各地で栽培可能です。
農研機構は2018年の公表時点で、2019年春から民間種苗会社などを通じて苗が供給される予定としていました。
2025年12月29日現在は、農研機構が公開する「種苗入手先リスト」にも掲載があり、タイミングや在庫状況によっては種苗会社等から入手できます。
実際、ふくむらさきの苗は2019年より民間種苗会社を通じて一般にも販売されるようになり、現在ではホームセンターや通信販売で苗や芋が入手可能になりつつあります。ただしまだ新品種のため、ホームセンター等で苗が見つからない場合もあるようです。
その場合でもウイルスフリー苗を扱う専門店やネット通販を利用することで入手でき、家庭菜園で育てる愛好家も増えてきています。
主な生産地としては、茨城県や千葉県など関東地方を中心に作付けが広がっています。
農研機構も「関東を中心とする青果用産地において普及する予定」としており、今後生産量が増えて市場流通も拡大していく見込みです。
まだ大規模産地は形成されていませんが、茨城県農業総合センターなどが先進的に試験栽培を行い品質評価を高く評価した経緯があり、茨城県内ではブランド化の動きも出てきています。
関東以外でも、九州沖縄農研が開発した品種ということもあって九州北部で栽培する農家も出てきています。
基本的には日本各地の気候で栽培可能なので、今後は全国で見られるようになる可能性があります。
旬の時期は秋から冬にかけてです。収穫適期が10月下旬以降ということから、11月~翌1月頃にかけて市場や直売所に出回るのがピークとなるでしょう。
貯蔵性は他のサツマイモと同様に比較的高く、低温にさえ当てなければ冬場から春先まで保存可能です。
まだ市場流通量は多くありませんが、一部の農家や産地直送通販では「焼き芋用の紫芋」としてふくむらさきを販売し始めています。
例えばインターネット通販(楽天市場など)やふるさと納税の返礼品でも、「しっとり甘い鮮やかな紫芋 ふくむらさき」といった商品名で登場しています(2025年現在)。
見かけた際はぜひ手に取って、その鮮やかな色合いと甘さを楽しんでみてください。
栄養成分と健康効果
ふくむらさきは栄養面でも魅力的な食材です。紫色の要因であるアントシアニンを豊富に含むことは既に述べましたが、それ以外にもビタミン類や食物繊維をしっかり含んでいます。
以下に主な栄養成分と期待される健康効果をまとめます。
アントシアニン
アントシアニンはポリフェノールの一種で、抗酸化に関連して研究されています。
健康効果については研究報告がある一方、食品単体での効果は摂取量や体質などで左右されるため、バランスのよい食生活の一部として取り入れるのがおすすめです。
ふくむらさきには先述のとおりパープルスイートロード以上の豊富なアントシアニンが含まれており、健康志向の方にも注目されています。
ビタミンC
水溶性ビタミンで、美肌効果や免疫力向上に欠かせない栄養素です。
コラーゲンの生成を助け、肌のハリを保つ働きがあります。
また抗酸化作用も持ち、紫外線など外部ストレスから肌や細胞を守る効果も期待できます。
品種ごとの数値は条件で変動するため一般論になりますが、食品成分表では「さつまいも(皮なし・生)」100gあたりビタミンC 29mg、焼きでは13mgとされています(加熱で減少)。
ビタミンE
脂溶性の栄養素で、体内で抗酸化的に働くことが知られています。
ふくむらさきは紫芋の中でも比較的ビタミンEを含むとされ、ビタミンCとの相乗効果で健康維持に貢献します。
βカロテン(プロビタミンA)
体内でビタミンAに変換されることがある成分です。
一般のさつまいもでも食品成分表上、βカロテンが掲載されていますが(例:生28µg/焼き35µg・可食部100g)、含有量は品種や調理で変動します。
ビタミンAは視力や皮膚・粘膜の健康維持に重要で、βカロテン自体にも抗酸化作用があります。
免疫機能を高める働きも報告されており、季節の変わり目など体調を崩しやすい時期の栄養補給にも適しています。
食物繊維
サツマイモ全般に豊富な食物繊維も、もちろん含まれています。
腸内環境を整え、便通の改善に役立つほか、食後の血糖値上昇を緩やかにする効果もあります。
紫芋であるふくむらさきも例に漏れず繊維質を含んでおり、健康的な食品と言えるでしょう。
このように、ふくむらさきはビタミンA(βカロテン)、ビタミンC、ビタミンE、食物繊維、そしてアントシアニンと、幅広い栄養素を兼ね備えています。
美容や健康維持を意識する人にもぴったりの食材であり、単に甘くて美味しいだけではない付加価値があります。
紫芋になじみがなかった方も、この機会に見た目の美しさと濃厚な甘さ、そして栄養面の高さを併せ持つふくむらさきをぜひ一度試してみてはいかがでしょうか。
他品種との比較
最後に、ふくむらさきを他の代表的なサツマイモ品種と比較してみましょう。
特に紫芋の旧来品種「パープルスイートロード」と、甘さで有名な黄色系品種「紅はるか」との違いをまとめました。
それぞれの果肉の色や甘さ、食感、特徴を比較表にしていますので、違いを把握する参考にしてください。
| 比較項目 | ふくむらさき (紫芋新品種) | パープルスイートロード (紫芋既存種) | 紅はるか (代表的甘藷) |
|---|---|---|---|
| 果肉の色 | 濃い紫色(鮮やか) | 紫色(やや淡め) | 黄白(黄色系) |
| 甘さ(糖度) | 非常に高い(糖度約22) ※紅はるか並み | やや控えめ(糖度約18) | 極めて高い(糖度20以上) ※蜜が多く非常に甘い |
| 食感 | しっとりなめらか(粘質系) | やや粉質でホクホク系 | ねっとり極甘(粘質系) |
| 主な特徴 | 紫芋では異例の甘さと食べやすさ。 色鮮やかで焼き芋◎スイーツ◎。 | 色は鮮やかだが甘さ控えめ。 収量が多く栽培しやすい。 加工用にも利用。 | 強い甘さと蜜質が特長。 焼き芋の定番で全国的人気。 ホクホク感よりしっとり感。 |
※紅はるかは参考までに記載しました(紅はるかは紫芋ではなく黄肉のサツマイモですが、糖度の高さの比較対象として挙げています)。
※糖度(Brix)は栽培・貯蔵・加熱条件で変動。数値は試験例(焼きいも条件)などを参照。
上の比較からもわかるように、ふくむらさきは従来の紫芋(パープルスイートロード)と比べて甘さ・食感の面で飛躍的に改良された品種です。
パープルスイートロードも抗酸化成分が豊富でヘルシーな品種ですが、肉質はやや粉質でホクホク系のため、最近人気の「ねっとり系焼き芋」のトレンドからは外れていました。
一方、ふくむらさきは紅はるかや安納芋のようなしっとり甘い食感を紫芋で実現したことで、新たな紫芋の代表格になることが期待されています。
実際、「紫芋の新たな王道」として紹介されることもあり、焼き芋専門店やスイーツ分野でも注目が高まっています。
まとめ

ふくむらさきは、「見た目も鮮やかで栄養豊富、そして味も抜群に美味しい」という三拍子そろった画期的なサツマイモです。
紫サツマイモ=甘さ控えめという従来のイメージを覆し、紅はるかに匹敵する強い甘みとしっとり食感を実現したことで、専門家からも高く評価されています。
また、抗酸化作用のあるアントシアニンや各種ビタミンを豊富に含み、健康面でのメリットも兼ね備えています。
栽培面では収量こそ若干少なめなものの、十分な育成期間を取れば品質の良い芋が収穫できます。
まだ市場に出回り始めたばかりで希少な存在ですが、スーパーや産直で見かけた際はぜひ一度手に取ってみてください。
焼き芋にすれば砂糖いらずの自然な甘さに驚くでしょうし、スイーツに使えば鮮やかな紫色で食卓が華やぎます。
ふくむらさきは、これからますます普及していくことでしょう。その美味しさで食べた人に“福”(幸福)をもたらす紫のサツマイモ、ぜひ一度味わってみてはいかがでしょうか。
